研究課題/領域番号 |
18K14250
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高野 祥太朗 京都大学, 化学研究所, 助教 (40758439)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 微量金属 / 安定同位体 / 海洋化学 / キレート抽出 / 陰イオン交換 / 環境分析 |
研究実績の概要 |
本研究では,キレート樹脂と陰イオン交換樹脂を用いて天然試料中微量金属Fe,Ni,Cu,Zn,Cd,Pb同位体比の一斉分析法を開発する.本年度は,海水中Fe,Ni,Cu,Zn,Cd,Pb同位体比分析法の開発に取り組んだ.海水中Ni,Cu,Zn,Fe,Cd,Pbは,微量であるため,同位体比測定に先立って,これらの元素を濃縮する必要がある.また,海水試料に多量に含まれる塩類が同位体比測定に干渉するため,それらを除去する必要がある. キレート樹脂には,エチレンジアミン三酢酸基を有するNOBIAS PA1樹脂を用いた.試料をpH4.5~5.0に調整し,NOBIAS PA1樹脂を充填したカラムに通液することで試料中Fe,Ni,Cu,Zn,Cd,Pbを100倍程度に濃縮できた.その後,陰イオン交換を行うことでこれらの金属を精製した.陰イオン交換においては,従来,塩酸溶液が用いられ,重金属を塩化物錯体として樹脂へ吸着させていたが,本研究では,塩酸溶液の代わりに,酢酸―塩酸混合溶液を用いて陰イオン交換を行った.重金属を酢酸錯体とすることで,重金属の陰イオン交換樹脂への分配が大きくなり,狭いバンドに重金属を濃縮することができるため,より短いカラムでの分離が可能となった.それにより,従来13時間かかっていた陰イオン交換が6時間に短縮され,薬品使用量も約半分となった.本法を用いて,南太平洋海水試料のNi,Cu,Zn同位体比分析を行った.得られた値は,従来法で分析した値と一致した.Fe,Cd,Pbについては,来年度,分析を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
海水中Fe,Ni,Cu,Zn,Cd,Pbの分離濃縮法を開発したが,Fe,Cd,Pbについては,未だ同位体比測定が行えていない.その点で計画からやや遅れている.これは,当初計画していなかった「酢酸を用いた陰イオン交換法の開発」を行ったためである.この陰イオン交換法は,従来法に比べ,はるかに迅速であり,来年度の研究を加速させる.そのため,今年度の遅れを来年度に取り戻すことは十分に可能であると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
(1)海水中Ni,Cu,Zn,Fe,Cd,Pb同位体比分析法の開発:昨年度行えなかった海水中Fe,Cd,Pb同位体比の分析を行う. (2)海水中粒子,エアロゾル,海底堆積物中Fe,Ni,Cu,Zn,Cd,Pb同位体比分析法の開発:海水中粒子,エアロゾル,海底堆積物は,海水に比べて,Al,Ti,Feなどの陸源元素に富む.これらの物質中のNi,Cu,Zn,Cd,Pb同位体比の分析には,これらの陸源元素の除去が必須となる.本研究では,NOBIAS PA1キレート樹脂による分離濃縮時にHFを用いて,これらを除去する.その後,本年度に開発した陰イオン交換法で,Ni,Cu,Zn,Cd,Pbを精製する.Feは,海水中粒子,大気塵,海底堆積物の主成分であるため,試料を溶解した時点で少量分取し,一回の陰イオン交換を行えば,同位体比が分析可能であると考えられる.都市大気粉塵および海底堆積物の標準物質を分析し,分析法の精度および確度を評価する. (3)海水,雨水,エアロゾル中Fe,Ni,Cu,Zn,Cd,Pb濃度・同位体比の解明:開発した分析法を実試料へ応用する.インド洋海水試料を分析し,海水中Ni,Cu,Zn,Fe,Cd,Pb同位体比の鉛直分布を明らかにする.高知,金沢,京都などで採取したエアロゾルおよび雨水のNi,Cu,Zn,Fe,Cd,Pb同位体比を明らかにし,これらの金属の起源を明らかにする.
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