研究実績の概要 |
微量金属安定同位体比は, 微量金属の生物地球化学循環を探る強力なトレーサーである. 従来の微量金属同位体比分析法の多くは, 微量金属を一元素ずつ天然試料から分離濃縮するため, 多元素の同位体比分析には膨大な時間と労力が必要であった. 本研究では, 一つの試料からFe, Ni, Cu, Zn, Cd, Pbを同時に分離し, 同位体比測定する分析法の開発を行った. 1)海水中Fe, Ni, Cu, Zn, Cd, Pb同位体比一斉分析法の開発:NOBIAS Chelate PA1樹脂カラムを用いることで,海水中のFe, Ni, Cu, Zn, Cd, Pbを定量的に濃縮するとともに,アルカリ金属,アルカリ土類金属を99.9%以上除去した.濃縮した試料を酢酸―塩酸混合液を用いて陰イオン交換することで,Fe, Ni, Cu, Zn, Cd, Pbを相互に分離した.分離したFe, Ni, Cu, Zn, Cd, PbをMC-ICP-MSに導入し,同位体比を測定した.本法を用いて太平洋海水試料の繰り返し分析および同試料への金属添加実験を行い,分析法の精度と確度を評価した. 2)大気塵,海洋粒子中Ni, Cu, Zn, Cd, Pb同位体比一斉分析法の開発:NOBIAS Chelate PA1樹脂による固相抽出時にフッ化アンモニウム水溶液を流すことで,大気塵,海洋粒子に多く含まれるAl, Ti, MnなどからNi, Cu, Zn, Cd, Pbを分離した.その後,海水試料と同様の陰イオン交換によってNi, Cu, Zn, Cd, Pbを相互に分離した.本法を用いて植物プランクトンと海底堆積物の標準物質のNi, Cu, Zn同位体比を分析した.この結果を論文にまとめて投稿した.Cd, Pb同位体比の分析については,今後検討する.
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