研究課題/領域番号 |
18K14254
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
東海林 竜也 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (90701699)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光ピンセット / 油水界面 / 金ナノ粒子 / 温度応答性高分子 / 顕微分光分析 |
研究実績の概要 |
界面におけるナノ物質や微小物体の光捕捉は、気/液界面でのアミノ酸の結晶化や半導体ナノ構造を用いた固/液界面におけるナノ粒子の高効率光捕捉など、バルク溶液中では見られない興味深い現象が報告されている。そこで本申請課題では、有機層―水層界面で金ナノ粒子と水溶性の温度応答性高分子を同時に光捕捉することで、高分子中に有機分子を濃縮し、抽出分子をSERSにより検出する高感度な分析手法を確立する。2018年度において、水/ヘキサン界面における半導体・金属ナノ粒子それぞれの効率的光捕捉および同時光捕捉による複合体形成を実施した。 捉対象物として、ヘキサン中に分散した発光性ナノ粒子および水中に分散した金ナノ粒子を用いた。この水/ヘキサン界面に捕捉用レーザー光を対物レンズで集光すると、上層(ヘキサン)に分散していた発光性ナノ粒子が界面に捕捉されたことを暗視野顕微鏡画像と顕微蛍光スペクトルから明確に確認することが出来た。同様に、金ナノ粒子の水溶液と純ヘキサンを混合し、油水界面にレーザー光を集光すると、金八面体ナノ粒子が界面で安定に捕捉された。ここで重要な事は、発光性ナノ粒子のヘキサン溶液のみ、あるいは金ナノ粒子の純水溶液のみを対象とした均一系の実験では、同様の集光条件ではこれらのナノ粒子は全く捕捉出来なかったことである。すなわち、油水界面はナノ粒子の安定な捕捉を支援する。これは界面吸着によりナノ粒子の拡散運動が強く抑制されたためと考えられている。現在、液液界面での高分子鎖の光捕捉に挑戦している。我々は本手法をLiquid-Liquid Interface-assisted Optical Tweezers (LiLiI-OT)と名付け、化学反応への展開も将来的に目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では2018年度において、油水界面での金ナノ粒子の捕捉と顕微分光追跡を実施し、有限要素法を用いた理論的検証を目指していた。実際に、水/ヘキサン界面において、金ナノ粒子の光捕捉に成功している。このとき、ヘキサン層に微量の有機溶媒を溶解させることで、表面増強ラマン散乱も実現できるであろう。有限要素法においては、金ナノ粒子近傍の増強電場を計算することに成功しており、光圧の理論的検証に向けて順調に進展している。しかしながら、水/ヘキサン界面では温度応答性高分子がヘキサン層側で不溶となるため、光捕捉に最適な系であるとは言い難い。イオン液体を含めた溶媒の最適な系を検討していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
上記に挙げた液液界面の溶媒選択の検討を進めつつ、以下のことも実施し研究計画を遂行する。(1)試料セルの改良、(2)レーザーの導入。(1)において、現在の独自開発したセルでは光圧を十分に作用することが難しい。より強い光圧を作用させるためには、高開口数の対物レンズを用いる必要があるが、そのためには液層の高さを、対物レンズの作動距離以下にまで狭めなければならない。そのための独自セルを改良する。(2)において、現有のレーザーでも十分ではあるが、今後の表面増強ラマン散乱分析に向けて、最適な発振波長を有するレーザーを導入する。そのために、有限要素法による理論計算、ならびに捕捉した金ナノ粒子の顕微消光スペクトル測定を実施し、理論・実験両面からSERS測定を遂行する環境を整えていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験試薬・器具等の消耗品が安く入手できたため差額が生じた。生じた差額は翌年度の実験器具・試薬等の消耗品に使用する。
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