本研究課題は申請者の資格喪失により平成30年7月末で補助事業廃止となったため、その時点までの研究実績を記載する。 本研究では、生きた状態かつ単一細胞レベルでの無侵襲ガン診断技術開発を目指した。がんに代表される代謝異常細胞が多く生成する乳酸の分布を可視化するために、市販の非冷却赤外線イメージセンサーを用いた非分散型赤外吸収顕微鏡の開発を行った。細胞が産出する乳酸の特異的な吸収は微少であり、赤外線イメージセンサーの画素間の感度差が可視化の障害となっていることが明らかとなったため、複数の一定温度に保った疑似黒体板を使用したセンサー感度校正法を開発した。続いて、乳酸の吸収帯である中赤外領域の波長を透過する材質で構成された細胞培養プレートが市販では確認されなかったため、底板がない特注細胞培養プレートと、シリコン、フッ化カルシウム等の赤外線を透過し、かつ細胞培養への影響が少ない材質を底板を歯科用接着剤で接着した細胞培養プレートを試作し、細胞培養と赤外光透過を確認した。懸念された歯科用接着剤による液漏れや細胞培養への影響は確認されなかった。また、赤外線フィルターと光源を組み合わせた小型赤外光源の開発も合わせて行い、乳酸量定量のため、複数の濃度の乳酸水溶液を試作プレートに注入して測定し、検量線作成を実施した。研究継続が可能だった場合、実際に細胞を培養してガン診断を行うこと、乳酸以外のガン細胞に特異的な物質(二酸化炭素等)の水溶液中での吸収波長を計算・実測すること、自由電子赤外線レーザー等の強力な可変波長を用いた場合の感度向上と細胞への影響を調査するという3点の関連研究を遂行予定であった。
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