栄養塩であるリンは流入負荷のほかに湖底からの溶出に負うところが大きく,宍道湖では特にリンの溶出量の増加がアオコ発生の重要因子と指摘する声が多い。本研究では,1)湖底堆積物中のどのような形態のリンが湖水に回帰するのか,2)そのリン,特にFe型リン(Fe-P)起源はどこにあるのか,を解明し新たなリン循環モデルの構築を目的に検討した。 本研究は当初2020年度までで終了予定であったが,新型コロナの影響で宍道湖,斐伊川の調査が進まず研究期間を2022年度まで延長した。 2018年度~2021年度において,1)に関しては,斐伊川水が流入する宍道湖西側から東側までの5地点の表層堆積物で湖心のFe型リン(Fe-P)の占める割合は約20%に対し,ほかの地点は10%程度であった。これは底成層の形成・破壊を繰り返すことでFe-Pの割合が変動することを示唆する。更に夏季の湖底を再現した室内実験からFe-Pが湖底からのリンの溶出に寄与することを明らかにした。2)については,斐伊川中流~最下流,赤川で増水時に濁水調査を行い,どの地点でもFe-Pの占める割合が高く,赤川のリン寄与は斐伊川に僅かながら影響を及ぼしていることがわかった。最終年度は斐伊川下流に地点を絞り増水時の調査に注力した。Fe-Pと流量について,いずれの調査においても流量ピークまでとピーク以降で正の相関性を示した。流量が大きい時のFe-P濃度は,流量のピーク時まで流量の上昇と共に増加するが,ピーク以降には流量の下降と共に一気に減少,その後徐々に減少した。一方,流量が小さい時は流量ピークを過ぎてもしばらくFe-P濃度が高いまま維持され,その後急激に減少することがわかった。これはFe-Pを多く含む懸濁粒子は流量のピークまでに一気に流下するのではなく,ピークを過ぎても緩やかに流下し,その後,流量の低下により一気に沈降することを示唆するものである。
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