最終年度では、これまでに得られた二次元発光分析の結果に基づき、放電ガス圧力を変化させてマススペクトルを得ることにより、本システムにおけるイオン化反応の解析を行った。大気中VOCsの模擬試料を調製するにあたっては、大気中VOCsの約4割を占める含酸素揮発性有機化合物(OVOCs)についての測定方法を確立する必要があるため、基礎的知見として、OVOCsを測定対象試料とした。 1.0 kPa程度以下の低圧下では、試料分子はフラグメントイオンとともに、ベースピークとして分子イオン([M]+)が検出された。これは、試料分子がカソード付近に存在している励起窒素分子(N2*)によるペニングイオン化が起こったと考えられるほかに、分子中にカルボニル基が含まれているため、α位での結合が切れ、試料のフラグメンテーションも起こったと考えられる。また、N2+による試料分子のイオン化(電荷移動反応)も考えられるが、N2*の励起エネルギーが11.1 eVと対象分子のイオン化エネルギーが10 eV以下と近く、他方N2のイオン化エネルギーは約15 eVと対象分子のイオン化エネルギーと大きく異なるため、ペニングイオン化でのイオン化が有意に起こっていると考えられる。 一方、2.5 kPa程度の高圧下においては、フラグメンテーションをほとんど起こすことなく、試料分子は、分子イオンとしてプロトン化した二量体([2M + H]+)がベースピークとして検出された。バックグラウンドには、大気プラズマ中で生成される水クラスター([(H2O)n + H]+)が検出された。水クラスターは、電極間に分布しているN2+から生成していると考えられ、試料分子に対しプロトン供与体として作用していると推測できる。このプロトン付加イオン化反応は、試料分子が水クラスターよりプロトン親和性が高い場合に起こる。また、様々なOVOCsを測定し、同様な結果が得られることを確認した。 なお、本研究の成果の一部は、口頭発表および論文発表を行っている。
|