当該年度では、①元素の種類を変える、②ドナー・アクセプター系ではない高分子において発光性の増幅を確認する、③キャリア輸送性を実測する、という3つの観点において、研究を進めた。 ①においては、スズ(Sn)に変えて、同じ14族元素であるゲルマニウム(Ge)に変更することによってその物性を比較した。その結果、ゲルマニウム錯体ではスズ錯体と同様、希薄溶液条件下において発光性を示すこと、スズ錯体よりも長波長領域に光吸収・発光性を示すこと、スズ錯体よりも求核試薬に対して不安定であることが分かった。これらは、計算化学により、ゲルマニウム錯体でもスズ錯体と同様、三方両錐形五配位構造であり、N=N結合が伸長しても分子の屈曲性が見られない構造であるという結果が得られていることと矛盾しない。前年度の研究である励起状態で屈曲性を有するホウ素錯体では希薄溶液条件下で発光性を示さなかった。長波長領域に発光がみられることに関しては、スズ錯体に比べてGe-N配位結合が短くなることと電気陰性度が大きくなることで説明できる。錯体の不安定性はゲルマニウムに直接、求核性の化合物が攻撃していることが示唆され、配位の結果形成される六配位構造が安定ではないことが原因と考えられる。加えて、共役系高分子化することが安定性を改善する良い手法であることも分かった。 ②、③においては縮環型アゾベンゼンホウ素錯体を用いて、ビニレン結合をリンカーとした共重合体を新たに合成した。その結果、光吸収・発光ともに近赤外領域に到達し、発光量子収率が2%という結果を得た。モノマーの発光効率は1%以下で観測困難であること考慮すると、高分子化により運動性が低下したため発光性を増したと言える。さらには、得られた高分子は高いキャリア輸送性を示すことが分かり、アゾベンゼン錯体をデバイス応用へと結びつける結果を得た。
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