研究課題/領域番号 |
18K14280
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
玉手 亮多 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 独立研究者 (70812759)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イオン液体 / ブロック共重合体 / イオンゲル / 水素結合 / 自己修復 / ミセル |
研究実績の概要 |
本研究では、イオン液体(IL)中で発現する高分子鎖間の超分子結合を利用した、自己修復性を持つイオン伝導性ソフトマテリアル(イオンゲル)の創製を目的としている。 本年度はIL中の高分子の溶解性を調べていく中で、ある種のIL中で高分子間の水素結合が強く働いていることを見出した。具体的には水素結合のアクセプター及びドナーとなる官能基、N,N-dimethylacrylamide(DMAAm)及びacrylic acid(AAc)を共重合した高分子P(DMAAm-r-AAc)を疎水性IL [C2mim][NTf2]と複合化することで、IL中での高分子間水素結合を物理架橋点とするイオンゲルを創製し、自己修復性を発現することを示した。しかし水素結合のみを物理架橋点として用いたイオンゲルは長時間スケールにおける水素結合の解離に伴う流動変形が観測され、自己支持性が低かった。そこで水素結合部位に加えILに不溶な部位を持つジブロック共重合体を合成し、ILと複合化した。その結果、ブロック共重合体がIL中でジャミングミセルを形成することで、得られたイオンゲルは高い自己支持性を示した。また水素結合のみからなるイオンゲルに比べ、高い破断応力を示した。このイオンゲルを切断し、切断面を圧着して室温で放置したところ、3時間でイオンゲルの引張-歪み曲線は切断前とほぼ同等に回復し、高い自己修復性を示した。またイオンゲルのサイクリックボルタンメトリーから、修復後のイオンゲルは修復前とほぼ同じ電流-電圧曲線を示した。即ち、創製したイオンゲルは室温において力学強度・電気化学特性の迅速な自己修復性を持つことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、イオン液体中の超分子相互作用として水素結合が有効であることを見出し、イオン液体中の高分子間の水素結合を駆動力とする自己修復イオンゲルを創製することを達成した。これまで、光異性化によるイオンゲルのゾル-ゲル転移を利用した光修復材料など、光や温度といった外部刺激を必要とするイオンゲルは報告されていたが、室温条件で自発的に修復するイオンゲルに関する報告はほとんどなされておらず、大きな進展と言える。しかしながら、イオン液体中の高分子間の水素結合のみを駆動力とするイオンゲルは、水素結合の組み換えに伴う流動変形が起こり、自己支持性が低いことも確認された。そこで水素結合部位に加えてイオン液体に不溶な高分子ブロックを持つブロック共重合体を合成し、イオン液体と複合化することで、ジャミングしたブロック共重合体ミセル間の水素結合ネットワークにより形成されるイオンゲルを創製した。その結果、イオンゲルの自己支持性が大きく向上し、また破壊強度の向上も確認された。これは、ジャミング状態のミセルが流動変形を抑制し、さらにイオンゲルのネッキング変形を抑制したためと考えられる。またこのイオンゲルは力学特性・電気化学特性の室温での迅速な自己修復性を示し、約3時間で切断前のイオンゲルと同等の性能を示した。 以上より、本年度は当初の想定を超えた進展が得られたと結論した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に見出した自己修復イオンゲルにおいては、高分子鎖とイオン液体のカチオン・アニオン間に働く競合的な水素結合が自己修復性の発現に大きな役割を果たしていると推察される。これをより系統的に検討するため、イオン液体のカチオン・アニオン構造を変えたイオン液体と水素結合性高分子を複合化し、ミクロな競合的水素結合とマクロな力学物性の相関を明確化する。 また、申請者が見出した自己修復イオンゲルは大気下において吸湿性が高く、湿度の影響で力学特性が劣化することが判明している。本研究で利用した水素結合のみならず、金属配位結合やイオン結合など多くの可逆結合は水分の影響を受けるため、湿度の影響による力学特性の変化は本研究で見出したイオンゲルに限らず、自己修復高分子材料に一般的に存在する共通の課題である。そこで今後の方策として、「疎水的IL中のイオン間相互作用」を新たなIL中で発現する超分子結合として提案し、イオンゲルのみならず自己修復性高分子材料の共通の課題である耐湿性と自己修復性のトレードオフを克服する材料設計の指針を確立したい。具体的には、重合性アニオン・カチオンを含有する疎水性IL溶液を調製し、in situで重合することでイオン間相互作用を駆動力とする自己修復イオンゲルを創製する。
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