研究課題
令和2年度は、有機無機複合膜における異種液晶構造の光パターニングに取り組んだ。吸湿基および光架橋基をもつ直鎖状ポリシロキサンを界面活性剤と混合し、スピンコート法にて有機無機複合膜を調製した。この複合膜は、相対湿度0%でラメラ構造を、そして50%でヘキサゴナル構造を形成した。相対湿度50%の環境に曝露した複合膜に紫外光をパターン露光することで、紫外光が照射された領域のみ液晶相の湿度誘起相転移現象が観測されなくなった。一方で、未照射部は0%への除湿によりラメラ相への液晶相転移が観測され、膜内のナノ構造が部分的に変換された。従来は有機無機複合膜のナノ構造を異種ナノ構造へ変換したい場合は、前駆体溶液の組成変更までプロセスを遡る必要があった。しかし、本研究にて開発した手法を用いることで成膜後に望みの場所のナノ構造変換が可能となった。すなわち、本研究はフォトリソグラフィーの新たなモードを提案するものである。令和元年度に、直鎖状ポリシロキサンがプラスチックと同様の力学特性を示すという想定していない現象を見出し、特許を出願するに至った。ポリシロキサンのこの特異な性質の解析も進めた。レオメータ測定の結果、ポリシロキサンは吸湿状態で生卵よりも低い貯蔵弾性率を示し、乾燥することでこの値は汎用プラスチック同等にまで上昇した。その変化幅は約1億倍であった。この弾性率変化は相対湿度に依存し、可逆に弾性率を変化させることが可能であった。直鎖状ポリシロキサンは通常オイルやグリースのような柔軟材料の主成分として使われ、本研究は直鎖状ポリシロキサンが汎用プラスチック同等の硬さを示すことを見出した最初の例である。すでに製品化の歴史が長いポリシロキサンではあるものの、新たな特性を見出したことで今後ますますの応用展開が期待される。
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Chemical Communications
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Scientific Reports
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