ハイドロゲルは柔らかく、水を多量に含む、といった特徴から生体代替組織への応用が期待される物質である。本研究では、ハイドロゲルの滑り摩擦と表面形状の関係を明らかにし、人工関節軟骨などへの生体代替組織に向けた低摩擦化手法を開発することを目的にしている。生体の関節軟骨の表面に円形凹みが存在することに着目し、同様の表面形状をゲルに付与して摩擦の速度依存性や荷重依存性などを調べることで、ハイドロゲルの摩擦が表面凹みによって低減することを確かめた。この摩擦低減の機構は表面積減少の他に、凹みから水が滲出し、潤滑に寄与することによるものであることを、カメラを使った直接的な観察により示した。 また、表面凹みを付与したゲルでは、平坦なゲルと比べて摩擦挙動の基板濡れ性依存性が異なることや、凝着-剥離に伴う仕事量が表面の形状に依存することを直接的な測定により示した。 人工関節軟骨などへゲルを応用するためには、滑り運動下におけるゲルの摩耗についても調査する必要があるため、研究対象としているポリビニルアルコールゲルの摩耗量を定量する方法を考案し、実施した。ゲルが滑り運動に伴って摩耗すると潤滑液中にゲル粒子が放出される。この摩耗粒子に着目して、ポリマーの濃度を紫外吸収スペクトルにより測定し、摩耗量の定量化が可能であることを示した。また全有機炭素測定を用いることで紫外吸収スペクトルによる測定よりも更に低摩耗領域まで定量的に検出可能であることを示した。
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