研究課題/領域番号 |
18K14289
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
高木 秀彰 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別技術専門職 (10720261)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 極小角散乱法 / ゴムの網目構造 / テンダーX線 / 異常分散 |
研究実績の概要 |
ゴムは加硫によって物性が大幅に向上することが知られている。これはゴム分子が持つ炭素-炭素二重結合が硫黄によって開裂し、ジスルフィド結合を形成することで分子鎖間が架橋され、三次元網目構造を形成するためである。この網目構造には、網目自体のメッシュサイズの不均一性だけでなく、ナノメートルスケールでの網目集合状態の不均一性が存在する。さらに高い階層であるマイクロメートルスケールにも不均一性が存在することが報告されている。 小角X線散乱法は散乱角が低い領域を計測する手法であり、ナノメートルサイズの構造評価に適している。従来は8keVを超えるような硬X線が利用されてきたが、近年では軟X線やテンダーX線の利用が注目されている。テンダーX線は主に1~5keVのエネルギーを持ったX線である。このエネルギー領域には、ソフトマターでは機能を直接司る原子が存在することが多い。ゴムの場合では、物性を向上させる硫黄のK殻の吸収端が2.47keVに存在する。この硫黄をターゲットにした異常分散を利用した極小角X線散乱装置の開発を行い、ゴムが持つ三次元網目不均一階層構造を解明することを目指した。 初年度は主にテンダーX線極小角散乱回折計の開発をするために、高エネルギー加速器研究機構放射光実験施設のBL-15A2に既に設置されている回折計の改造を行った。具体的には実験ハッチ内上流部に設置されているテンダーX線回折計と下流部の汎用回折計を連結させるパスの設計・建造を行い、さらに検出器と回折計を連結するためにビームストップチャンバーの設計を行った。また既存のテンダーX線回折計を用いてゴムの異常分散効果を利用した小角散乱実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
BL-15A2の上流部に設置されているテンダーX線回折計と下流部の汎用小角散乱回折計を連結する真空パスの設計・建造を行い、汎用実験時に上流部に置いて使用する装置類の退避機構の設計・製作を行った。しかしながら、検出器と回折計を連結するビームストップチャンバーの設計が間に合わず、平成31年度初めごろには製作を始め、秋ごろまでに完成させる予定である。 特注で製作した薄膜ゴムの異常分散を利用した小角散乱実験は行うことができることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度内に行うことができなかったビームストップチャンバーの設計・製作を行う。それにより、検出器とチャンバーを連結させ、試料部から検出器まで真空にできることを確認する。極小角散乱回折計が完成した後に、測定可能な小角分解などの基本スペックを調査する。その後ゴム薄膜試料を使って異常分散効果を利用した極小角散乱実験を行う。ゴム試料はフィラー材の有無や硫黄の配合量を変えたものを用意し、それらが網目の階層構造がどのように影響を与えるのか調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ビームストップチャンバーの製作が平成30年度内にできなかったため、その経費である。
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