研究課題/領域番号 |
18K14294
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山本 俊介 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (70707257)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高分子超薄膜 / 交互吸着 / 人工シナプス / 電子伝導 / イオン伝導 |
研究実績の概要 |
神経・脳の情報伝達を模倣した、人工知能など計算・機械学習技術は近年飛躍的に進歩している。これはソフトウエア的な技術進歩に因るところが大きいが、計算コストが大きい点が問題である。一方でハードウエア的な解決、例えば「人工シナプス素子」が実現すれば、低消費エネルギーでの演算が期待できる。従来の人工シナプス素子研究では、(A)無機物を用いて半導体プロセスで作製される二端子型素子か、(B)高分子材料を用いて塗布作製される三端子型素子しか検討されてこなかった。(A)は材料選択幅の狭さ、(B)は素子構造の複雑さが問題である。そこで、①構造が簡単、②素子のflexible/wearable化が可能、③wet環境でも動作可能な高分子材料を用いた二端子型人工シナプス素子の創製を目指した。本研究では交互吸着(LbL; layer-by-layer)法を用いる。LbL法では高分子電解質(イオン解離基を有するためイオン輸送性を持つ)を①nmスケールで②任意の積層順序により③大面積・均一に積層することが出来るため、本研究には至適である。この際、酸化還元活性なフェロセンなどの金属錯体部位を化学的に微少量導入した高分子電解質を用いることで、膜中の任意の位置に任意の濃度で酸化還元活性部位を導入可能となる。以上の方策によりイオン伝導性と電子伝導性を両方有する混合伝導体超薄膜の作製を試み、さらに素シナプス動作の実証を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに①カチオン性高分子電解質PEIに対する電子伝導性部位(フェロセン)修飾手法の開発、②LbL法による薄膜集積手法の開発と、③積層した試料の電流―電圧特性評価を行った。①において、活性エステル基を有するフェロセン誘導体とPEIを室温で混合することによりフェロセン修飾PEI(PEI-Fc)の合成が可能であり、なおかつ仕込み比によって得られるフェロセン修飾濃度が制御可能であることが分かった。次に、②においてアニオン性高分子電解質としてポリスチレンスルホン酸(PSS)を用いることでLbL膜の積層に成功した。顕微鏡観察の結果、表面は平滑であり薄膜作製が可能であることが分かった。さらに③において電流―電圧特性評価を行ったところ、フェロセン導入率が高濃度の系では電子輸送性によると考えられる導通がみられた。一方、低濃度の系では湿度に依存した電流―電圧特性が得られ、低湿度ではイオン伝導に由来すると考えられる抵抗変化挙動が、高湿度ではフェロセンの酸化還元に由来する信号が観測された。
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今後の研究の推進方策 |
今後はカチオン性高分子へのフェロセン導入濃度を調整した試料について、精密に湿度を制御した上で系統的に電流―電圧特性を検討することで、抵抗変化挙動に必要なフェロセン濃度と湿度条件を明らかにする。さらにこれを基に、LbL法の特性を活かして累積シーケンスの制御によるフェロセン含有層と不含有層の精密配置による素子構造からの電流―電圧特性制御について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入および旅費については、比較検討を行った結果、購入予定物品および旅程が予定よりも安価で購入できたため。2019年度は消耗品費および成果報告のための外国旅費を中心に執行する予定である。
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