研究課題/領域番号 |
18K14294
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山本 俊介 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (70707257)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 交互吸着法 / 抵抗変化スイッチ / 交流インピーダンス |
研究実績の概要 |
本年度は長期記憶にフェロセン(Fc)の酸化還元反応を、短期記憶に交互積層(LbL)膜によるイオン拡散を用いて抵抗変化スイッチ型シナプス模倣素子の作製を試み、電流-電圧測定および交流インピーダンス測定により評価した。低いFc導入率の膜試料において、低湿度時には、負に掃引時にヒステリシスが観測され、正に掃引時には電流が流れなかった。一方、高湿度時にはヒステリシスとともにFcの酸化還元に由来すると考えられるピークが現れた。この抵抗変化挙動はイオン拡散に起因し、酸化還元反応には水が媒介する必要があると考えられる。このことを交流インピーダンス測定から確認したところ、LbL内の伝導モードは単一であり、抵抗は湿度増加に伴い増加することが分かった。一方で中程度のFc導入率を持つ試料では、ヒステリシスとFcの酸化還元によると考えられる抵抗変化が観測された。掃引時の電流値が大きいことから、イオン伝導に加えてFcを介した電子伝導も起こっていることが示唆される。交流インピーダンス測定でも伝導モードが二つ存在することが示された。また、高いFc導入率を持つ試料では抵抗変化が見られず、常に低抵抗であったことから、Fcサイト間同士の電子伝導が起こっていると考えられる。しかしながら累積層数を増加させると中程度のFc導入率を持つ試料と同様に複数の伝導モードが確認された。以上の結果からFc含有量を制御することで抵抗変化素子のイオン・電子伝導のバランス調整が可能であるので、シナプス模倣素子への応用可能性が示された。 一方、英国ケンブリッジ大学との共同研究によって電気化学トランジスタ型の人工シナプス素子作製について検討を行い、活性層となるPEDOT:PSS膜に高分子電解質を添加することで素子特性の制御が可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに人工シナプス素子のスイッチング層に関する基礎的な構造・物性かを概ね完了することができた。得られた結果はFc含有量および層数を制御することで抵抗変化素子のイオン・電子伝導のバランス調整が可能であることを示しており、当初計画で想定していた設計因子が有効であることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は神経模倣素子の活性層への実装による素子作製と動作検証を行う。その際には当初計画で想定していた抵抗変化スイッチ型の二端子素子に加えて、電気化学トランジスタ型の三端子素子への応用検討も行うこととし、本研究で開発した交互吸着膜の有用性をより明確に示すことのできる系を作製することで研究全体の総括につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は海外派遣プログラムに参加して研究を進めており、消耗品の支出が減少するとともに旅費の支出が増加した。次年度以降に本年度支出予定だった消耗品関係の支出を行う予定である。
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