研究実績の概要 |
神経模倣素子は脳の活動を模倣した電子素子であり、近年注目を集めている。神経模倣素子としては二端子素子構造を有する抵抗変化スイッチや三端子素子構造を有する電気化学トランジスタ(OECT)を用いた例などが報告されている。本年度OECT素子を神経模倣素子としての駆動実現と応答速度制御を試みた。パターン金電極上に混合伝導性高分子PEDOT:PSSとイオン伝導性高分子PSS-Naを種々の割合で混合した水溶液(架橋剤GOPSおよび界面活性剤dodecyl benzenesulfonic acidを含む)をスピンコート後、熱アニール、純水中への浸漬による未架橋成分の除去によってOECT素子を完成させた。 PEDOT:PSS / PSS-Na混合OECTの出力特性から、PSS-Naを混合した場合でもneat PEDOT:PSSと同様にデプレッション型のOECT動作が確認できた。次に、Paired-pulse-depression(PPD)法による神経模倣動作試験を行った。この測定ではパルス間隔Δtを有する2本のパルス電圧をゲート電極に印加したときに得られる、ドレイン電流応答におけるスパイク振幅A1,A2を観測する。その結果、パルス間隔が短い時にはA1とA2が異なる戻る挙動が見られた。これは1本目のパルスによって誘起されたチャネル層内におけるイオン濃度分布の変調が、2本目パルスの到達までの時間では解消されていないことを意味する。この挙動は指数関数を用いて説明され、その減衰時定数はPSS-Naの添加に伴って150 μs (neat)から29 μs (1:19 blend)へ短縮されたこのことはPPDで見られた挙動はゲート電流の過渡応答と相関することを意味しており、今回見られた神経模倣動作はチャネル層内におけるイオン拡散挙動によって決定づけられていることが明らかになった。
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