研究課題/領域番号 |
18K14295
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒澤 忠法 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (30720940)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ラダー構造 / 半導体高分子 / π共役高分子 / 分子内相互作用 / 疑似的なラダー構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、π共役半導体高分子骨格に主鎖中の分子回転軸を排したラダー構造を付与することで、π共役高分子が持つ半導体能を大幅に向上させることを目的とする。昨年度、多縮環構造を組み込んだドナー・アクセプター型π共役高分子(P(ChDTBT))を開発し、高い結晶性と共に、これまでに報告されているπ共役高分子において最高クラスの短いπ平面間距離(0.34 nm)の実現に成功した。今年度の前半、理論計算も駆使してP(ChDTBT)の一次構造・集合体構造・半導体性能の相関をより詳細に調べた。その結果、P(ChDTBT)は分子間のキャリア輸送が非常に効率的であることが示唆された。これは主鎖骨格の特異的なπ電子軌道形態により、膜中の分子の配列形態に関わらず有効なキャリアパスが生成されたためである。本結果は現在国際誌からの査読が完了し、修正後に受理される予定である。 一方で、π共役高分子において分子の回転軸を排したラダー構造によって、溶解性が著しく低下し集合体構造を制御することが困難であることが明らかとなった。そこで本年度の後半では、分子設計指針において軌道修正を行った。具体的には主鎖中のヘテロ元素と相互作用を持つ官能基を側鎖に導入し、主鎖内での分子間内相互作用を利用することで疑似的なラダー構造を構築することとした。これにより、溶解性を損なうことなく目的のラダー構造を得られるだけでなく、分子設計と合成において汎用性が飛躍的に高まる。実際に既存のポリチオフェン誘導体の側鎖をアルキル基からアルコキシ基へと変換したところ、光吸収がアルキル基に比べて飛躍的に長波長領域へと延びた。これは、主鎖の硫黄と側鎖の酸素の相互作用により分子の平面性と凝集性が高まったためであり、疑似的なラダー構造が誘起されたと言える。ここで得られた半導体材料が大気安定性に優れた導電性高分子への展開も可能であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は半導体高分子の高移動度化の設計指針として、主鎖のπ電子軌道形態を有効に利用することで効率的な分子間のキャリア輸送が実現できることを見出した。本結果によって、π共役半導体高分子の分子設計指針として世界にさきがけて新しいコンセプトを示すことができた。一方で、本研究の主たる目的は主鎖中の分子回転軸を排すことによって分子内のキャリア輸送性を高めることであるが、この点においては計画より遅れている。具体的には、ラダー構造による溶解性の低下は研究計画の段階で懸念されていたものの、側鎖の調整によって本問題は解決できると予想していた。現にドナー・アクセプター型ではないラダーπ共役高分子は実際に合成され、適切な側鎖の導入により十分な溶解性を示すものであった。しかし、分子間相互作用が強く働くドナー・アクセプター型ラダーπ共役高分子の溶解性は予想を大きく下回るものであり、材料性能を評価できないものであった。そこで分子設計指針において軌道修正を行い、疑似的なラダー構造を構築することで研究目的を達成することとした。現在までのところ、分子間相互作用を利用することで疑似的なラダー構造が構築されていることを示す結果が得られている。また、疑似的なラダー構造を有する半導体高分子が大気安定性に優れた導電性高分子へと展開できることも分かった。軌道修正後の設計指針では、材料の設計および合成が以前よりも効率的に行えることから研究の加速が期待され、残りの研究機関で当初の目的を達成することが可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、分子間相互作用を利用することにより疑似的なラダー構造を構築できることを見出した。この相互作用が分子構造だけでなく電子状態に及ぼす影響についても興味がもたれるところであり、今後は半導体性と導電性の両面において基礎物性を詳細に調べる。また、十分な溶解性が得られていることから、分子配列を制御することも可能となる。製膜プロセス手法の最適化によって半導体性能を高める分子配列を実現するとともに、その詳細な構造解析を行っていく予定である。これらと並行して、理論計算によって回転障壁エネルギーを計算し、疑似的なラダー構造を構築できるより強固な分子間相互作用の選定を進め、次の材料設計へと還元する。
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