本研究は、π共役半導体高分子骨格に主鎖中の分子回転軸を排したラダー構造を付与することで、π共役高分子が持つ半導体能を大幅に向上させることを目的とする。 昨年度は、アルコキシ側鎖をポリチオフェン骨格に導入することで高分子主鎖の平面性、剛直性、結晶性、延いてはキャリア移動度が高まり、高ドープ時の電気伝導度は300 S/cmを超える高い値であり、この電気伝導度は大気中で2ヶ月以上劣化することがないほど高い安定性を示すことを見出した。今年度は、側鎖の構造や導入位置を調整した数種のポリチオフェン誘導体を合成し、伝導特性評価・分光測定・薄膜構造解析を通じてアルコキシ側鎖が大気安定性に及ぼす影響の解明を行った。その結果、主鎖に直結した酸素原子の電子供与性が高ドープ時の主鎖の仕事関数を高め、大気中の水からの還元が抑制されることで高い大気安定性が獲得できることを見出した。 また、本知見を基に高いドープ能と大気安定性を両立したドーパント分子の開発も行った。強力な酸化力を有するテトラアリルベンジジンジカチオンとフッ素含有アニオンの対からなるイオン性分子から成る分子性ドーパントは、これまでに報告されている中でも最高レベルのドープ能を示しつつ、固体状態では大気中での劣化が見られないほど高い大気安定性を示すことが分かった。構造解析の結果、ドーピングの役割を担うジカチオン種を疎水性のアニオン分子が密に囲むような集合体構造が本ドーパント分子の高い安定性を誘起することが強く示唆された。本結果は、国際誌に受理された。
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