研究課題/領域番号 |
18K14297
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
赤松 範久 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (50806734)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ひずみ / 分子配向 / 湾曲 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,湾曲した高分子フィルムの表面ひずみを微視的に定量解析し,ナノスケールの分子の動きが巨視的な動きに増幅されるプロセスの解明を目的とする。フレキシブルデバイスの開発は,湾曲に追従する高伸縮な材料の開発とデバイス全体の薄型化に大別される。しかしながら,高分子フィルムの湾曲メカニズムには未解明の点が多く,ひずみの視点から湾曲挙動を詳細に理解することが求められる。そこで本研究では,曲げてもひずまないフィルムを創製する第三のアプローチを提案している。湾曲挙動の理解に基づき,戦略的に分子配向を空間精密制御することにより,折り曲げても劣化しないフレキシブルな高分子基板を創製する。 本年度は,測定対象である未延伸や延伸処理された様々な高分子フレキシブル基板に周期構造体を有する薄膜ラベルを貼り付け,レーザー光を入射した際に生じる回折光を利用して,表面ひずみを定量的に解析することに成功した。様々な単層高分子フィルムの湾曲往路における表面ひずみは,湾曲時のフィルム形状を画像解析して得られた曲率半径より算出した理論表面ひずみと同様の傾向を示すことがわかった。また,容易に分子配向を制御できる液晶を用いて高分子フィルムを作製し,湾曲に伴う表面ひずみが増減することも見出しつつある。このように,湾曲時の表面ひずみを分子配向の観点から制御できれば,高性能でありながら低伸縮性ゆえに適応困難であった無機半導体や金属材料をフレキシブルデバイスへ実装でき,学理構築から産業界への発展的な波及効果が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り,柔軟性と粘着性に優れたポリジメチルシロキサンを用いて周期構造体を有する薄膜のラベルを作製し,未延伸や延伸処理された様々な高分子フィルムに貼り付けることで,湾曲に伴う表面ひずみを高精度に解析することに成功している。また,フィルムの湾曲形状を画像解析して得られた曲率半径より算出した理論表面ひずみとの比較も可能となった。さらに,既製品の汎用性高分子フィルムのみならず,ラビング法により配向性液晶高分子フィルムを作製し,湾曲に伴う表面ひずみが湾曲方法により異なることを見出した点もおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
空間的に分子配向を精密制御した高分子フィルムの作製と表面ひずみ解析を進める。分子配向による表面ひずみの違いを見出せたため,さらに綿密な材料設計を行い,ひずみを制御したフィルム基板の作製を検討する。具体的には,分子配置の制御,分子配向の制御の2点に着目して材料設計し,表面ひずみを制御したフィルムを作製する。分子配置の制御においては,2種類のモノマーを光重合した際の反応速度の違いによる分子拡散を利用する。架橋剤の選定,光照射条件を最適化することにより,膜厚方向に分子濃度勾配を有するフィルムを作製する。分子配向の制御においては,配向制御により異なる弾性率を示す液晶分子を用いる。一軸配向,ホメオトロピック配向に加え,空間的に配向を制御したツイストネマチック配向やハイブリッド配向などを利用する予定である。精密に分子配向を制御できれば湾曲に伴う両面のひずみが非対称になり,曲げても表面ひずみが抑制されると期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
湾曲解析システムのアタッチメントが特注品のため,本年度内納品に間に合わなかった。加えて,研究費を効率的に使用したため未使用分が生じた。次年度は,本年度購入予定であったアタッチメントの購入とレンズやフィルターなどの光学部材の購入費に充てる。
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