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2019 年度 実施状況報告書

有機ドナー・アクセプタ界面のカスケード電子構造と電荷再結合過程の関連の解明

研究課題

研究課題/領域番号 18K14301
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

中野 恭兵  国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (00726896)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワード有機太陽電池 / 有機光電変換 / 過渡光測定 / インピーダンス分光 / 電荷寿命 / 電荷量 / ヘテロ構造
研究実績の概要

本研究は、有機ドナー・アクセプタ薄膜をシンプルに積層した平面ヘテロ界面における有機光電変換の原理的な側面を探求するものである。具体的には、ヘテロ界面に存在するカスケード(階段状)電子構造が光電変換に理想の界面構造になり得るという仮説のもと、その電荷再結合過程を評価し、これまでの研究結果と合わせてカスケード電子構造の包括的な理解を目指すものである。
本研究で取り扱うのは、薄膜転写法によって作成する平面ヘテロ界面である。薄膜転写法は界面に生じうる分子の混合や無秩序化を極限まで低減した界面を得るために欠かせない手法である。これにより、平面ヘテロ界面で起こる現象をより確かに捉えることが可能になる。

本年度は、前年度に検証した電荷再結合過程の評価方法の妥当性を学術論文として報告した。過渡光電圧/光電流(Transient Photovoltage/Photocurrent: TPV/TPC)測定とインピーダンス分光(Impedance Spectroscopy: IS)測定を用いて平面ヘテロ接合構造における電荷寿命・電荷量を評価し、それらの妥当性を議論した。平面ヘテロ接合構造のように、ドナー・アクセプタ界面の面積と素子の電極面積が等しく素子の幾何容量の影響が大きい場合、TPV/TPC測定結果から幾何容量ぶんの寄与を差し引いて解析をするのが信頼性の高い評価結果を与える。IS測定は幾何容量の影響を分離することが難しい場合があり、すべてのケースで有効であるとは言いがたい。

その他、太陽電池内部の静電ポテンシャルを数値計算するプログラムを作成した。ポアソン方程式を自己無撞着に解くことで静電ポテンシャルを得、それをもとにして素子内部のエネルギーダイヤグラムを描くコードをPythonを使って実装した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平面ヘテロ接合素子における電荷寿命と電荷量を評価するための実験的な指針が確立され、信頼性の高い測定が行えるようになった。この結果を学術論文として報告した。

これらの成果を得るためには、(1)平面ヘテロ接合構造の作製法の確立、(2)過渡光電圧/光電流測定法・インピーダンス分光のための測定系の構築、(3)比較実験として用いた電荷引き抜き測定 (Charge extraction)を行うためのアナログ回路開発、(4)多量の実験データを恣意性を排除して迅速に解析するためのプログラムの実装、が必要であった。これまでの研究開発の経験を活かしながら、これらの課題を解決してきた。全体を通して比較的スムースな進展が見られたと考えている。

静電ポテンシャルの計算に関しては、Pythonによる実装が完了し実際の有機平面ヘテロ接合構造を対象にした数値計算が可能な状態になった。コーディング中は主にデバッグに時間がかかったが、一度実装が済んでしまえば計算・解析は容易であるので、有用なコード資産を得たと考えトータルでは順調な進展と考えている。一般的なデバイス解析ソフトウェアでも同様の計算をするものは複数存在するが、大概が非常に高価でありかつツールとしての柔軟性に不満を感じることが多い。その点自作のプログラムであれば、解析のためのデータ構造の変更やより精密なモデルへの拡張が容易である。

今後の研究の推進方策

過渡光電圧/光電流による測定を、ドナー・アクセプタ界面に意図的に第三の層を挿入した平面カスケード構造素子に適用し、カスケード層の性質と電荷の寿命に関する知見を獲得する。用いる材料系は近年盛んに研究されている非フラーレンタイプのアクセプタ分子と高分子ドナー、高分子カスケード層を考えている。

カスケード層の影響はそのエネルギーレベルに強く依存すると考えられるが、実際の素子中におけるエネルギーレベルを実験的に評価することはできない。かわりに静電ポテンシャルを数値計算することで、素子内部のダイヤグラムがより正確に得られるのではないかと予想する。静電ポテンシャルの計算方法は実装済みであるが、計算結果の妥当性は検証の必要がある。そのためには、太陽電池ではなく金属/有機薄膜というシンプルな構造を使って実験する。この構造なら実験的に内部静電ポテンシャルが測定でき、計算結果との整合性を検証できる。計算結果と実験結果に大きな乖離が見られる場合には、計算に用いている物理モデルが間違っているか、足りない要素があるということなので、モデルの改善をしていきたい。計算が実験結果をよく再現するようであれば、太陽電池構造の素子の計算を行い、そのエネルギーダイヤグラムを得る。

次年度使用額が生じた理由

本年度までの使用状況はほぼ計画どおりである。次年度使用額約5万円は、実際の購入金額と申請時の見積額が若干ずれたことによる。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2019

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Quantifying charge carrier density in organic solar cells by differential charging techniques2019

    • 著者名/発表者名
      Nakano Kyohei、Chen Yujiao、Tajima Keisuke
    • 雑誌名

      AIP Advances

      巻: 9 ページ: 125205~125205

    • DOI

      10.1063/1.5122709

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Anatomy of the energetic driving force for charge generation in organic solar cells2019

    • 著者名/発表者名
      Nakano Kyohei、Chen Yujiao、Xiao Bo、Han Weining、Huang Jianming、Yoshida Hiroyuki、Zhou Erjun、Tajima Keisuke
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 10 ページ: -

    • DOI

      10.1038/s41467-019-10434-3

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] 有機薄膜太陽電池の電子状態間のエネルギー差と電荷生成効率の相関2019

    • 著者名/発表者名
      中野 恭兵、Chen Yujiao、Han Weining、Huang Jianming、吉田 弘幸、但馬 敬介、
    • 学会等名
      第66回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] Minimum Energetic Driving Force for Charge Generation in Organic Solar Cells2019

    • 著者名/発表者名
      Kyohei Nakano, Weining Han, Jianming Huang, Yujiao Chen, Hiroyuki Yoshida, and Keisuke Tajima
    • 学会等名
      2019 MRS Fall meeting & exhibit
    • 国際学会

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公開日: 2021-01-27  

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