塗布工程により大面積・フレキシブルな電子デバイスを省コスト・省資源・省エネルギーに製造するプリンテッドエレクトロニクス技術の実現に向け,本研究では,塗布製膜性・デバイス特性・デバイス安定性に優れたn型塗布有機半導体材料基盤の拡充を目的とする.昨年度に引き続き,優れた層状結晶性により薄膜トランジスタ(TFT)の高いデバイス性能が期待できる2次元分子配列構造に焦点をあて,その候補材料として有力な,長鎖アルキル基で拡張パイ電子骨格を非対称に置換した非対称分子の材料開発を精力的に進めた.電子デバイスの塗布製造に適する溶解性と耐熱性を兼ね備えることが期待される5縮環のパイ電子骨格を標的とし,パイ骨格の対称性に着目して上記の分子設計指針の有効性検証を行った.結果として,無置換の場合に隣接分子どうしが反平行に配列することに起因してデバイス性能が制限される非対称なパイ骨格の一つについて,アルキル鎖を含む置換基を導入した新規分子を開発した結果,これら置換基の導入によって,2次元性の平行分子配列が得られることを実証し,非対称パイ骨格からなる材料群の中で最高クラスとなる移動度を示す優れたデバイス動作を確認した.これと並行して,高均質な有機半導体薄膜を印刷するための塗布製膜技術として,半導体インクに用いる溶媒の化学種・沸点・表面エネルギーに対して最適な印刷条件を提供するための印刷下地層の表面改質技術を開発した.複数の自己組織化単分子膜(SAM)材料からなる混合SAMについて検討し,その混合比をパラメーターとして表面濡れ性を微細制御できることを実証するとともに,この特徴が,有機半導体インクの最適な印刷条件を実現するのに非常に効果的であり,TFT特性の改善につながることを示した.
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