研究課題/領域番号 |
18K14303
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北中 佑樹 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20727804)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 誘電体材料 / 単結晶成長 / 結晶構造解析 / 自発分極 / 電場誘起相転移 / 反強誘電体 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
本研究は、種々の電場応答機能が電子デバイスなどに実用化されているペロブスカイト(ABO3)型酸化物において、結晶構造中の酸素八面体ネットワークが有する回転変位を制御・活用することによって、電場による分極応答の高機能化や新たな機能の発現の達成を目的としている。 今年度は、反強誘電体と強誘電体の性質を併せ持つフェリ誘電体材料として知られる、チタン酸ビスマスアルカリ系セラミックスを主な対象として、Aサイト元素量の調整によって導入される欠陥構造が電気物性に及ぼす影響を評価した。種々のA/Bサイト組成比を持つセラミックスの種々の電気物性の温度特性を調査した結果、結晶の安定相が数%のAサイト量差によって敏感に変化することが明らかとなった。これらの安定相はそれぞれ対称性の異なる酸素八面体の回転モードを有しており、それに伴い構成カチオンの自発変異に由来する電気分極の値も異なっている。結果として、電場印加下における分極応答が劇的に変化することが明らかとなった。 また、物理蒸着法によりAO層とBO2層の積層状態を制御した薄膜作製も行った。狙いとする積層構造を有する超格子構造薄膜のエピタキシャル成長を、成膜温度や雰囲気の最適化によって達成した。得られた薄膜の電気物性および結晶構造を評価した結果、AO層の挿入による八面体結合の切断が分極反転特性に影響することが判明した。 これらの結果は、酸素八面体ネットワークを操作することによって、ペロブスカイト型材料の電気物性を制御するうえで重要な指針を与える研究成果として位置付けられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度実施した単結晶の研究で得た知見を受けて、単結晶では実現困難なAサイト組成を有するセラミックスやエピタキシャル薄膜へ研究を展開した。当初はニオブ系エピタキシャル薄膜の成膜条件探索が難航したものの、対象とする系の再検討などによって対応した。Aサイト組成の操作によって、酸素八面体ネットワークが有する回転変位の挙動を変えることができ、電気物性の制御が可能となることを示す結果が得られており、当初の計画通りおおむね順調に進展しているといえる。また、Aサイト欠損が酸素八面体の回転モード安定性に及ぼす影響や、AO層の挿入による格子歪みの影響など、当初想定していなかった結果も得られている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度まで、酸素八面体の回転変位が物性に及ぼす影響を、理論計算に基づく推定をもとに調査してきたが、前述のとおり一部想定していなかった影響も実験的に明らかとなっている。これらの要素が酸素八面体回転を有する結晶構造の安定性にどのように寄与するのかを定量的に評価する目的で、第一原理電子状態計算を中心とした理論的解析を進めることを予定している。また、これまでに得られた実験結果に理論計算による考察を加えて、研究成果として論文発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理論計算から得ていた当初の想定と異なる実験結果が得られたため、実験結果に基づく理論計算の再構築が必要となった。薄膜系の成膜条件探索が当初難航した影響もあって、期間内の理論解析が不十分だと判断したため、研究期間を延長して第一原理計算を中心とする理論解析を行う。今年度得られた実験結果を理論計算の面から考察することによって、酸素八面体回転の挙動制御指針を構築し、その内容を論文発表する予定であり、次年度使用額は主に計算費用と論文発表費用に充てる。
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