本年度は、昨年度までの単結晶および薄膜での実験において得られた反強誘電相の結晶構造相転移に関する考察を深める目的で、Nb系ペロブスカイト型酸化物を対象に第一原理電子状態計算を実施した。 昨年度までの結晶構造解析結果や既報などを参考に、4倍周期構造を持つ反強誘電構造および、2倍周期構造を持つ強誘電構造の計算モデルを、密度汎関数理論に基づく構造最適化計算により作製した。得られた両構造を群論に基づく原子変位解析により評価し、両相間の構造転移について考察した。八面体回転変位と分極変位との間の相互作用が両相で大きく異なっており、結晶構造中の八面体回転と分極変位が部分的に応答するという、実験で観察された八面体回転を伴う分極応答の起源が示唆された。 また、一部Nb系ペロブスカイト材料で報告されている特異な電気物性(フェリ誘電性)についても、得られた計算モデルを用いて考察した。完全結晶においては安定したフェリ誘電構造は確認されなかった。一方、ある種の電子的欠陥を含む結晶構造は、欠陥に由来する電子密度が一部の酸素八面体内に局在化し、回転変位に影響を及ぼすことによって、反強誘電相と強誘電相の中間構造を安定化することが示された。両相の相境界構造における外場応答機能を解明することは、これらの材料の圧電性などの実用機能を向上制御する上で重要な知見につながることが期待される。以上の得られた成果はR3年度の国際学会で発表する予定である。
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