研究課題/領域番号 |
18K14304
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 耕太 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (40708492)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リチウム硫黄電池 / 全固体電池 / 固体電解質 / 液相合成 |
研究実績の概要 |
次世代の蓄電デバイスとして期待されている全固体型のリチウム硫黄電池の高性能化に向けて、固体電解質の液相合成法と全固体電池用正極複合体の合成への応用を検討した。 1.アルジロダイト型Li6PS5Cl材料の溶液を用いて正極複合体を作成し、全固体電池特性を評価した。細孔径10-100nm程度のカーボンレプリカ内へとの導入と再析出が可能であることが明らかになった。さらに、カーボンレプリカにあらかじめ硫黄を導入した、硫黄/カーボンレプリカ複合体に対して固体電解質の導入を行い、硫黄正極複合体を得た。様々な細孔径のカーボンレプリカを用いて試験することで、電池特性の細孔径サイズ依存性を明らかにできた。液相法による細孔内への固体電解質導入の効果は、細孔径が小さいときに特に有効であり、機械混合法で得られた硫黄正極複合体と比べて高いサイクル特性を示した。 2.超イオン導電体Li10GeP2S12の溶解に適した溶媒をスクリーニングした。アルゴンガスで充填したグローブボックス内で、各種溶媒に対するLi10GeP2S12の溶解試験を行った。低級アルコールにLi10GeP2S12は溶解可能であった。これら溶媒に対する電解質の質量分率が特に重要であり、最適化することでLi10GeP2S12が完全溶解した均一溶液が得られることが分かった。 3.液相法が固体電解質材料の物性へ与える影響を調べた。液相プロセス後の試料に対して溶媒を除去する乾燥を実施し、その後必要に応じて高温での焼成を行った。懸濁液および均一溶液を介して得られるLi10GeP2S12は、液相プロセスによる顕著なイオン導電率の減少を示さないこと明らかになった。一方で、均一溶液の扱いは難しく、わずかな水分の混入や混合時間、温度の変化によってLi10GeP2S12相が再析出しないことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の達成目標である三項目について、それぞれ成果が上がっている。 (i) 液相法によるLi10GeP2S12系固体電解質材料の合成手法確立:既にGe系の材料において、適切な溶媒と質量分率を見いだしており、今後Si系、Sn系などの材料へと展開するための基盤が確立できた。 (ii) 液相を経由した固体電解質の細孔内導入手法の確立:液相法によって固体電解質が細孔内に導入されることが確認できている。充填率が目標の70%に達していないことが今後の課題である。 (iii) 細孔径、硫黄担持量、電解質導入量の最適化による電池性能の向上:細孔径と電池性能の相関を見いだしている。液相混合による性能向上が顕著であった10 nm程度の細孔を有するカーボンレプリカを用いて、硫黄担持量、固体電解質導入量の最適化を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
液相法による硫黄正極複合体作成の最適化により、さらなる全固体リチウム硫黄電池の性能向上を目指す。 (i) 液相法によるLi10GeP2S12系固体電解質材料の合成手法確立:Si系、Sn系などの材料へと展開する。Li10GeP2S12系固体電解質材料の構成元素によって最適な溶媒や、質量分率が異なる可能性があるため、Ge系での条件を基に、各組成における合成条件の最適化を実施する。特に、低温(400℃以下)での熱処理で結晶化可能な組成を見いだすことに注力する。 (ii) 液相を経由した固体電解質の細孔内導入手法の確立:固体電解質の細孔内における充填量の向上を目指す。その上で、充填量を制御するための実験パラメーターを見いだし、硫黄正極複合体を自由にデザインするための基盤技術を確立する。 (iii) 細孔径、硫黄担持量、電解質導入量の最適化による電池性能の向上:細孔径、担持量、電解質導入量に加えて、複合体の熱処理プロセスを最適化する必要があることが分かったため、検討を進める。必要に応じて、活物質を単体硫黄(S)から、その放電状態に対応する硫化リチウム(Li2S)へと変更する。
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