持続可能なエネルギー変換型社会の実現に向け、リチウムイオン電池・ナトリウムイオン電池を代表とする二次電池が大きく注目されている。これらの電気自動車や家庭用蓄電池への大型展開を実現するためには、大容量化・低コスト化が要求されており、原理解明に基づく新規材料開発が重要である。構造解析は充放電における体積変化や反応メカニズムの解明に対して基礎となる情報であり、核磁気共鳴(NMR)は局所構造解析に有用な手法の一つである。 構造解析が特に重要な正極材料として、酸素レドックスが発現する材料群をとりあげる。これらの系は、大きな充放電容量を示すことから有望な正極材料として注目されている一方、多くの系において充電後に不可逆な構造変化が生じることが知られている。本課題において、ナトリウム過剰層状正極材料であるNa2-xRuO3をモデル系としてとりあげ、第一原理計算に基づくNMRスペクトルの解釈を行った。充放電過程のいずれの構造においても、第一原理計算によるスペクトルは実験と良好な一致を示した。また、化合物の電子状態とスペクトルのピーク位置の関係性に関しても詳細に議論した。 今後は、充放電過程における様々な準安定構造を探索する手法とあわせることで、より詳細な局所構造解析が実現すると期待される。得られた構造を基に理論発生電位・体積変化・電子状態、さらにはNMRスペクトルのピーク位置を計算し、実験と比較することで、妥当性を確保しつつ、有望な材料の効率的な開発が可能となると考えられる。
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