研究課題/領域番号 |
18K14319
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
宮崎 怜雄奈 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10756191)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Liフリー化合物 / 固体電解質 / 全固体Li電池 / ゲストLi+ |
研究実績の概要 |
全固体Li電池の早期実用化に向け、高Li+伝導性・電気化学的安定性・良圧粉成型性を有する、高性能な固体電解質の開発が求められている。従来はLi電池用の固体電解質は、Li化合物をターゲットに材料探索されていた。一方で本研究では、Liフリー化合物(固体溶媒)をホスト格子に用い、ここへLi+をドープすることで、従来と異なる固体電解質の開発を狙っている。本研究期間ではLiフリーアルカリハライドに着目し、材料開発を行っている。アルカリハライドの中で、特にNaI中に置換固溶したLi+が、優れた伝導特性を示すことが明らかとなった。この固体電解質はNaIへLiBH4を固溶することで作製される。ドープされたLi+がNaI格子中を優先的に伝導することが明らかになる一方で、ホストイオンであるNa+伝導に関する知見はほとんどなかった。そこで、実際にNaI-LiBH4を固体電解質、Si薄膜を作用極に用いて全固体電池を試作し、Si薄膜中に充電したイオン種を分析することで、NaI-LiBH4中の伝導種を調べた。その結果、Li+がSi中の主な充電イオン種であり、Na+はほとんど充電反応に寄与していないことがわかった。この実験結果はNa+伝導度はLi+伝導度に比べて無視できるほど低いことを意味しており、NaIはLi+のドープにより純Li+伝導体になることが実証された。さらにNaI中のLi+の移動度は、いくつかの既知の高イオン伝導体よりも高いことがわかった。したがって、Liフリー化合物をベースとすることで、従来と異なる新奇な固体電解質を開発できることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で明らかにするべき点は以下A)からC)の3点であり、それぞれ着実に進展がみられている。A)Li+固溶量およびLi+伝導度の大小による、固体溶媒のカテゴライズ:KI、NaI以外にもNaBrもLi+伝導体となることを実証しており、着実に固体電解質の候補材料を増やしつつある。一方で、例えばNaClはほとんどLi+が固溶しない等、固体電解質として適さないLiフリー化合物も明らかにしており、Li+固溶量を基に固体溶媒を順調に選定できていると考えている。B)実用レベル(10-4 S/cm@室温)のLi+伝導度発現、および伝導機構の解明:NaI-LiBH4系では、未反応のLiBH4が存在することが問題となっていた。そこであらかじめNaI-NaBH4系固溶体を作製した後にLiIをドープし、すべて岩塩型の結晶構造を有する化合物を原料に合成することで、単相に近い試料を得ることに成功した。第二相の低減により、現状ではLi+を10 mol%ドープしたNaIにおいて、1.5×10-5 S/cm(@室温)のLi+伝導度を確認している。現段階ではキャリアの導入を行っておらず、次年度で多価カチオンのドープによりカチオン空孔を導入し、目標が達成される見込みは十分あると考えている。C)固体溶媒へのNa塩ドープによるNa+伝導体合成:ハロゲン化アルカリへのゲストNa+は、微量ながら固溶が示唆されたが、現状では伝導度は非常に低いものしか得られていない。したがって、少なくとも材料探索を行ったハロゲン化物においては、少量ドープしたイオンの優先的な伝導は、Li+に特有な現象なのではないかと考えるに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、Li+固溶量が多くLi+伝導を確認できたNaIに着目し、さらなる伝導度の向上を目指す。具体的には①欠陥量やLi量を変化させて、キャリア濃度を向上させること、②BH4-組成を変化させて移動度を向上させることで、伝導度向上を狙う。室温で2×10-5 S/cmを超える伝導度が発現した試料では、実際に全固体電池を作製・評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に比較的安価な試薬類で材料探索ができたため、原料試薬の購入費分の未使用額を次年度に繰り越した。本年度は引き続き原料試薬や消耗品類の他、指導学生が国際学会に参加するための旅費・宿泊費を予算に計上している。
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