高濃度水系電解液を用いるリチウムイオン二次電池は電解液のイオン伝導度が小さいにも関わらず、高いレート特性を示すことが知られているが、その機構は明らかになっていない。本研究では水溶液系リチウムイオン二次電池の高出力化のために、高濃度水溶液中における電池内部の正極と電解界面の反応機構の解明を行った。水系リチウムイオン二次電池で広く研究されている正極材料LiMn2O4をパルスレーザーデポジション法により薄膜化し、高濃度のLithium bis(trifluoromethanesulfonyl)amide (LiTFSA)水溶液と組み合わせることでモデル正極・高濃度水溶液界面を構築した。溶液構造の評価はラマン分光測定により行った。また濃度をパラメータとした際のLiMn2O4正極のレート特性、およびLiMn2O4正極中のLi+拡散係数、LiMn2O4正極/電解液界面における交換電流密度、電解液中におけるLi+の拡散(イオン伝導度)を電気化学測定により計測した。ラマン分光測定により、高濃度ではTFSA-がLiと配位し、会合状態で存在することが明らかとなった。バルク溶液中のイオン伝導度は高濃度化すると減少し、LiMn2O4正極中のLi+拡散係数は電解質濃度依存性が見られなかった。一方、界面における交換電流密度の頻度因子は高濃度化することで大幅に向上した。この頻度因子の向上によって出力特性が向上したと考えられる。得られた高濃度電解液中における電極反応の基礎的な知見は、電気化学分野の発展に繋がるだけはなく、水溶液系リチウムイオン二次電池やその他の電池系の開発にとっても重要なものである。
|