研究課題/領域番号 |
18K14334
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田村 朋則 京都大学, 工学研究科, 助教 (10746639)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | P/Q型カルシウムチャネル / 蛍光イメージング / タンパク質化学修飾 |
研究実績の概要 |
電位依存性カルシウム(Ca2+)チャネルとシナプス小胞間の距離は神経伝達物質放出を制御する主要因子であると考えられている 。しかしその重要性にも関わらず、従来の電子顕微鏡技術では両者を同時に観察できないため、実際のCa2+チャネル-シナプス 小胞間距離やその空間分布は不明であった。そこで本研究では脳組織中の内在性Ca2+チャネルを化学修飾し、ナノメートル分解能で可視化可能な新手法を開発する。具体的には、申請者が開発したタンパク質修飾手法である“Affinity-guided Oxime Chemistry”に基づいてCa2+チャネルに金ナノ粒子を導入し、Ca2+チャネルとシナプス小胞の電子顕微鏡観察を実施する。本手法によってCa2+チャネル-シナプス小胞間の距離が決定できれば、記憶・学習に関わる神経伝達機構の分子論的理解がより深まり、 神経疾患の病態解明や治療法開発に貢献すると期待できる。平成30年度は、小脳プルキンエ細胞に豊富に存在するP/Q型Ca2+チャネルに標的を絞り、そのアンタゴニストであるω-アガトキシンIVAのN末端に蛍光色素やオキシム触媒を連結した化合物を合成した。続いて、この蛍光色素-アガトキシンコンジュゲートがP/Q型Ca2+チャネルに結合することを確かめるために、マウス脳スライスにおいてイメージング解析を行った。その結果、このプローブはP/Q型Ca2+チャネルが豊富に存在する小脳分子層に特異的に集積することが明らかとなった。ここで合成した蛍光プローブは今後強力なP/Q型Ca2+チャネル染色試薬としての応用が期待される。今後は合成したオキシム触媒連結アガトキシンを用いて、P/Q型Ca2+チャネルの化学修飾を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もっとも困難であると思われたアガトキシンIVAの化学合成はケミカルライゲーション法を適用することでスムーズに進行し、複数のアガトキシンプローブ合成手法の確立に成功した。また、アガトキシンのN末端にプローブを導入してもP/Q型Ca2+チャネルとの結合活性を保っていることが確認でき、実際にマウス脳スライスレベルでP/Q型Ca2+チャネルの蛍光イメージングに成功した。次年度は当初計画通りアガトキシンのビオチン誘導体や金ナノ粒子修飾体を合成し、実際に電子顕微鏡による局在解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究は当初計画通り進んでおり、平成31年度には、市販のアビジン-金ナノ粒子コンジュゲートを用いて脳スライス中のカルシウムチャネルに金ナノ粒子を標識し、電子顕微鏡によってその局在とシナプス小胞との位置関係を解析する。以上の実験系により本手法を確立した後、他のカルシウムチャネルサブタイプ(N, T, R型)や他のイオンチャネル(ナトリウム, カリウムチャネル)にも適用し、神経 生物学研究の新しい分子ツールとしての有用性を実証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、アガトキシンリガンドの合成が難航すると思われたため、合成試薬類の購入に多額の予算を計上した。しかし、ケミカルライゲーション法の活用によって想定よりもスムーズにアガトキシン合成スキームの確立に成功したため、試薬購入にかかる使用額が減少し、次年度使用額が生じた。この繰り越し予算は次年度において金ナノ粒子修飾抗体の購入や高価な蛍光プローブ購入に充てる予定である。
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