電位依存性カルシウム(Ca2+)チャネルとシナプス小胞間の距離は神経伝達物質放出を制御する主要因子であると考えられている 。しかしその重要性にも関わらず、従来の電子顕微鏡技術では両者を同時に観察できないため、実際のCa2+チャネル-シナプス小胞間距離やその空間分布は不明であった。そこで本研究では脳組織中の内在性Ca2+チャネルを化学修飾し、ナノメートル分解能で可視化可能な新手法を開発する。具体的には、申請者が開発したタンパク質修飾手法である“Affinity-guided Oxime Chemistry”に基づいてCa2+チャネルに金ナノ粒子を導入し、Ca2+チャネルとシナプス小胞の電子顕微鏡観察を実施する。本手法によってCa2+チャネル-シナプス小胞間の距離が決定できれば、記憶・学習に関わる神経伝達機構の分子論的理解がより深まり、 神経疾患の病態解明や治療法開発に貢献すると期待できる。令和1年度(平成31年度)は、前年度開発したアガトキシン毒素プローブによって小脳プルキンエ細胞に豊富に存在するP/Q型Ca2+チャネルの可視化に成功した。さらに、アガトキシン-oximeコンジュゲートを作製し、これを用いたラベリングを試みた。P/Q型Ca2+チャネルの修飾は未だ達成できていないものの、別のタンパク質を標的とした実験において生きたマウス個体内においてAffinity-guided Oxime Chemistryによるタンパク質修飾が可能であることが確認された。今後はアガトキシンプローブの構造最適化を検討し、P/Q型Ca2+チャネルの電子顕微鏡レベルの可視化を目指す。
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