研究課題/領域番号 |
18K14337
|
研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
朝比奈 裕子 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (90808461)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ナノポア / 半合成 / BAX / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、光照射による可逆的なナノポア形成を可能とする人工BAXタンパク質を構築する。BAXは、不活性の状態では細胞質内に遊離しており、活性化されることによって、 タンパク質通過することができる比較的大きな孔(ナノポア)を脂質二重膜に形成する。 本来、この不活性状態から活性状態への構造変化は、他のタンパク質由来であるBH3ドメイ ンの結合により誘導されが、申請者は、半合成法を用いてBAXの特定部位に光感受性 アミノ酸、アゾべンゼンアミノ酸を導入することによって、光照射により不活性構造から活性構造へ、さらには活性構造から不活性構造へ構造変化が可能な、可逆的なナノポア形 成能をもつBAXを調製する。 まず、人工BAXの半合成を行う前に、半合成で得られた試料の評価を行うための実験系をNativeなBAXとBH3ドメインペプチドを用いて構築することとした。NativeなBAXについては既に報告されている大腸菌を用いた発現系を用いて調製を行い、BH3ドメインペプチドに関してはペプチド固相合成によって調製を行う。それらを用いて、蛍光実験にて脂質二重膜に膜孔が形成されたか否かを検証することで試料の評価を行う。蛍光物質を含むリポソームを調製し、そこにBAXとBH3ドメインペプチドを加える。膜孔が形成されれば、リポソームから蛍光物質が放出され、蛍光強度の上昇が観察されるといったものである。膜孔の大きさについてはリポソーム内に含ませる蛍光物質の大きさを変えることで考察する。当該年度に関してはこの実験系に必要なNativeなBAXとBH3ドメインペプチドの調製を完了した。 また、人工BAXを調製するため、発現系でN末端セグメントを調製し、アゾベンゼンアミノ酸を含むC末端セグメントを合成化学的に調製する。半合成に必要なBAXの大腸菌発現用のベクターと合成セグメントの調製に関しては既に完了している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年10月より京都薬科大学の助教として着任し、新境地での本務や実験室のセットアップを行う必要があったため、予定どおりの進捗状況よりやや遅れている。 しかしながら、コントロールのために必要なNativeのBAXタンパク質の発現用ベクターやNativeのBAXと結合して膜孔を形成させるBH3ペプチドの合成と精製、人工BAXの作成に必要なセグメントの合成と精製、大腸菌発現用のベクターの一部の調製に関しては完了しており、現在NativeBAXの発現精製の最適化を行っているところである。調製後、直ちに蛍光実験での膜孔形成の検出方法の確立を行うとともに、今後遅れを取り戻しながら研究を行っていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
NativeBAXを発現、精製し、膜孔形成の有無を確認するための実験系を構築する。その実験系は単純に膜孔が開いたか、否かを確認する蛍光実験と、開いた膜孔の大きさを考察する電気化学的実験の2つを考えている。電気化学的実験に関しては共同研究者と共に行う予定であり、直ちに膜孔形成を確認することは困難である。そのため、本研究室にて蛍光実験での膜孔形成が確認できるよう実験系を組み立てる。さらに蛍光物質の大きさを変えることによって大まかな膜孔の大きさを検討できるようにする。その後、電気化学的実験により、より正確な膜孔の大きさを観察する。よって電気化学的実験は蛍光実験で膜孔形成が観察された後に行う予定である。 また、人工BAXを半合成するためにはCys変異の適した場所を決定しなかればならないため、Cys変異体を4種類程度発現、精製し、Nativeと同じ反応が起こるものを探索する。この「Nativeと同じ反応」は前半に記した蛍光実験を行い、Nativeなものと同じ条件で膜孔が形成されるか否かで判断を行う。 さらに人工BAXの半合成にも着手し、半合成の反応条件の検討を行っていく。合成セグメントは既に得られており、大腸菌発現用のベクターも一部得られることから、大腸菌発現によりセグメントの調製方法の確立を行うとともに、合成セグメントとの縮合反応の最適化を行う。縮合部位の検討を行わなければならないため、同時に他のセグメント調製も行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年10月に京都薬科大学に着任したため、前所属先の本務の引き継ぎ、新所属先の本務の準備や研究室の立ち上げがあったため、研究が予定どおりに進行できず、次年度使用額が生じた。また、学会への参加も見送らなければならなかった。 しかし、現在は研究室の立ち上げは完了しており、問題なく本務も遂行できているため、今後研究の進行の遅れを取り戻すことができると考えられる。そのため、次年度使用額に関しては本来どおりに研究の遂行に必要な消耗品や、研究成果の発表や情報収集のための学会参加に対して使用する予定である。
|