研究課題/領域番号 |
18K14342
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
劉 成偉 北海道大学, 理学研究院, 助教 (60773801)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | mushroom / Aspergillus oryzae / heterologous expression / pleuromutilin / erinacine |
研究実績の概要 |
キノコは我々の生活に密接に関わっている重要な食用資源であり、古くから健康食品として広く利用されてきた。抗菌活性や抗腫瘍活性を有することから、その薬用効果にも高い関心が寄せられている。しかし、キノコは子実体形成の有無や培養条件の違いによって、異なる代謝物を与えるため、その安定供給は困難である。この問題を解決するには、異種宿主を用いた物質生産が有効だと考えられる。 そこで本研究では、麹菌異種発現系を利用したキノコ由来生物活性物質の異種生産を行った。 昨年度、キノコが生産する2種の天然物pleuromutilin (1)、erinacine (2)を題材として、これまでに報告例のないゲノムDNA配列を利用した異種生産を検討した。1及び2の基本骨格は、GGPP合成酵素(Ple4/EriE)と環化酵素(Ple3/EriG)により構築される。各遺伝子のゲノム配列を麹菌へ導入し、取得した形質転換体 (AO-eriEG, AO-ple43)の代謝産物を解析したところ、基本骨格であるpremutilinとcyathadieneの生産を確認した。また、各形質転換体からmRNAを調製して対応するcDNA配列を確認した結果、報告されている配列と同一であることを確認した。 各化合物の骨格構築に成功したことから、酸化修飾に関わるP450の機能解析も試みた。キノコのP450遺伝子はイントロン数が多く、短いエキソン配列を有することから、cDNA配列の予測が困難である。しかし、両化合物生合成遺伝子クラスターに存在するP450遺伝子を麹菌に導入したところ、ほぼ全てのイントロンが正しく除かれることが分かった。稀に除かれないケースがあるものの、ミススプライシングは起こらなかった。除かれていない部分は、PCRにより、簡単に修正可能であり、本手法は培養が困難なキノコ由来天然物質生合成研究に有用な方法だと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに構築した形質転換体のうち高生産株の一つであるbetaenone B を生産する形質転換体 (AO-bet1/3/2)のゲノム解析を行い、6か所の生合成遺伝子挿入部位を見出した。これらの部位に標的生合成遺伝子を導入することで、目的の形質転換体を高い頻度で得られると期待した。ゲノム編集技術の一つである CRISPR/Cas9 を用いることで、標的部位に目的の生合成遺伝子を正確に導入することができた。また、従来利用していた非相同末端修復系を介した標的遺伝子の導入と比較して、形質転換率が大幅に改善することを明らかにした。 この方法を利用して、キノコが生産する2種の天然物骨格構築酵素遺伝子ゲノム配列を標的部位に導入し、premutilinとcyathadieneの生産に成功した。この結果から、麹菌は担子菌由来の遺伝子も正しくスプライシングできることが示唆された。この結果を踏まえて、イントロン数が多いP450遺伝子が正しくスプライシングされるか検討した。pleuromutilin とerinacine 生合成遺伝子クラスターに存在するPle1/5/6, eriA/C/I合計6個P450遺伝子を麹菌に導入した。各形質転換体から調製したcDNAのシーケンスを解析した結果、ple6とeriAは全てのイントロンが正しく除かれた。残る4つ遺伝子についてもほぼすべてのイントロンが正しく除かれていたが、それぞれ1ヶ所或いは2ヶ所のイントロンが除かれていなかった。ただし、それらの配列についても残存するイントロンを人工的に除去することで解析可能であり、eriIとeriCの機能解析に成功した。その他に、担子菌由来のセスキテルペン合成酵素(STS)の解析にも成功した。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Erinacine生合成遺伝子クラスターには3つのP450遺伝子が存在している。本年度は、そのうち2つの機能を明らかにしたが、残り1つは機能解析することができなかった。これは、麹菌内のP450オキシドレダクターゼがキノコ由来のP450を還元できないためだと考えられる。この問題を解決するために、erinacine生産菌からP450オキシドレダクターゼ遺伝子をクローニングし、麹菌へ導入することを計画している。また、他種のキノコに由来するerinacineと類似の遺伝子クラスターに存在する相同性が高い遺伝子(P450)をクローニングし、麹菌へ導入する予定である。重要な中間体の生産が確認されたら、続いて、糖転移酵素遺伝子やアセチル基転移酵素遺伝子を導入し、erinacine類天然物の異種生産を完成させる。 また、ゲノム編集技術を利用して、複数の生合成遺伝子を同時に導入することを検討する。丸山らは、生育阻害を誘導する転写因子遺伝子Aoace2を利用することで、薬剤耐性マーカーを含むゲノム編集用プラスミドの脱落・再利用を可能にした。これを利用して、erinacine生合成遺伝子を麹菌に導入した後、ゲノム編集プラスミドを脱落させ、薬剤耐性マーカーの再利用を試みる。それにより、ゲノム編集による生合成遺伝子の多重導入が可能であるか検証する。この多重導入技術が確立できれば、ゲノムマイニングの手法によって未開拓の遺伝子資源を利用し、新たな天然物の探索する予定である。
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