トリプルネガティブ乳がん(TNBC)とはその他の乳がんでは発現するホルモン受容体、成長因子受容体の3つすべてが欠損した乳がんである。他の乳がん治療で効果的な分子標的薬、ホルモン療法が効かないうえ、転移が起こりやすい特徴を有する。若年乳がんでその割合が高く、再発を繰り返すことから予後が非常に悪い。そのため、治療に有効な標的分子の発見から作用機序解明に至るまでの創薬基礎研究が極めて重要である。申請者は、抗がん活性ジテルペンParvifloron(PF)類の全合成、ヒト培養がん細胞に対する構造活性相関研究の過程で、TNBC細胞に対して選択的に増殖抑制活性を示す新規化合物の創出に成功している。本研究では申請者が発見したPF誘導体を基盤にTNBC細胞中の標的タンパク質を探索・同定し、その作用機序を解明することを目的とする。 TNBC細胞に対して選択的に増殖抑制活性を示す化合物はその構造上、タンパク質と非共有結合で相互作用する可能性と共有結合で相互作用する2つの可能性が考えられたため、どちらの相互作用でも標的タンパク質が検出可能な化学プローブを設計した。本プローブはヒト培養がん細胞への投与や細胞抽出物との反応に用いることから、有機溶媒中においてのみだけでなく、生理的条件においても安定であることが求められる。従って、加水分解に安定なアミドやN-アルキル構造をプローブ内に取り入れることにした。初めに化合物中に存在するヒドロキシ基を足掛かりに種々の条件を検討しアミノ基の導入を試みたところ、基質の安定性や反応性に問題があることが判明した。そこで活性に影響を与えない部位を精査するために様々な誘導体を合成、TNBC細胞に対する増殖抑制活性を評価し、化学修飾可能な部位が他にも存在することを明らかにした。得られた知見を基に作用機序解明に向けて研究を継続していく。
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