研究課題/領域番号 |
18K14346
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岩崎 有紘 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (00754897)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 海洋天然物 / 抗寄生虫薬 / 熱帯病 / マラリア / トリパノソーマ |
研究実績の概要 |
海洋天然物由来の抗寄生虫薬リード化合物の創出を目指す本研究に関し、本年度は以下の実績を上げた。 (1) nM オーダーで抗寄生虫活性を示す環状リポペプチド、ジャナドライドについて、その全合成を達成した。確立した合成ルートを元に、各アミノ酸残基に改変を加えた11種類の類縁体群を合成した。現在、これらの分子の抗寄生虫活性の評価を行っている。 (2) nM オーダーで抗寄生虫活性を示すラクタム、ホシノラクタムについて、脂肪酸部末端に改変を加えた2種の類縁体群を合成した。さらに天然より、新規類縁体2種を新たに単離、構造決定し、それらの全合成を達成した。現在、これらの分子の抗寄生虫活性の評価を行っている。 (3) 沖縄、奄美地方に生息する海洋シアノバクテリアより、抗寄生虫活性を示す以下の新規化合物群を新たに単離し、その構造を決定した。ホシノアミドAおよびB:特徴的な長鎖アミノ酸部を持つ鎖状ペプチド化合物であり、10 μM の濃度でもヒト細胞に毒性を示さない一方で、マラリア原虫に対して 0.5~1 μM の濃度で増殖を阻害する。イコアミド:2個のメトキシ基を含む脂肪酸鎖を持つ鎖状リポペプチドであり、ヒト由来細胞に毒性を示すよりも 10 倍薄い濃度で、マラリア原虫の増殖を阻害する (IC50: 0.14 μM)。マブニアミド:N末端にブタン酸部を持つ鎖状リポペプチドであり、40 μM の濃度でもヒト細胞に毒性を示さない一方で、マラリア原虫に対して 1.4 μM の濃度で増殖を阻害する。本化合物の全合成も達成した。 (4) 所属研究室でこれまでに単離してきた天然物およびその合成類縁体およそ70種について、マラリア原虫、赤痢アメーバ、ジアルジアに対する増殖阻害活性を評価した。その結果、いくつかの有望な活性を示す化合物が見つかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初にすでに発見していた有望な活性を示す3つの化合物(ホシノラクタム、ジャナドライド、マエダミド)については、すべての全合成を達成し、供給ルートの確立がなされた。また、このルートを用いて、ジャナドライドについては11種、ホシノラクタムについては2種の人工類縁体の合成を完了した。さらに、天然より新規ホシノラクタム類縁体2種を新たに見出し、その全合成を達成した。現在、これらの化合物の抗寄生虫活性の評価を行っている。 これらの化合物の評価にあたっては、東京大学医学部と国立感染症研究所にそれぞれ新たな協力者を見出し、彼らの評価系を利用している。その結果、研究開始当初に予定していたよりも多くの種類の寄生虫(アメーバ赤痢やジアルジア)に対して抗寄生虫活性の評価が可能となった。活性の評価にやや時間がかかる傾向にあり、次年度以降の改善が望まれる。 上記に加え、新たに天然より4種の抗寄生虫活性を示す天然物を発見することに成功し、一部については全合成を達成した。これらの化合物はいずれも、前述の3種の化合物ほど強力な抗寄生虫活性は示さないものの、ヒト由来細胞に対する毒性が非常に低い。全合成研究にも着手しており、合成類縁体を用いた構造活性相関の解明につなげていきたい。次年度も新規抗寄生虫物質の探索を継続しておこなう。
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今後の研究の推進方策 |
現在、抗寄生虫活性の評価を行っているホシノラクタムおよびジャナドライド類縁体については、評価結果をもとに研究の方針を決定する。今回評価を行っている化合物の中には、ビオチンリンカーをもつプローブが複数含まれている。こうしたプローブが抗寄生虫活性を保持していた場合は、それらを用いて原虫内結合タンパク質の同定を行う。前述の東大医学部の協力者の研究室で原虫のライセートを調製し、このものに対するアフィニティー精製を行うことで、原虫内結合タンパク質を吊り上げる。得られたタンパク質は、ペプチドマスフィンガープリンティング法によって同定を行い、化合物の示す抗寄生虫活性との関連性の検証を行う。一方、評価の結果、活性を保持したプローブが得られなかった場合は、新たな類縁体をデザイン、合成し、このものの抗寄生虫活性を評価する。 上記と平行して、自然界からの新たな抗寄生虫活性を示す化合物の発見を目指す。海洋シアノバクテリアの代謝産物には地域差があることが知られている。そこで、従来の採集地域である沖縄、奄美地方に加え、中華人民共和国、海南省の Hainan Institute of Science and Technology に籍を置く研究協力者の協力のもと、当地で採集を行い、新たな活性物質の発見を目指す。海南島に生息する海洋シアノバクテリアからの天然物探索研究は報告が無く、新しい骨格の抗寄生虫活性化合物の発見が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年12月より2019年3月まで、アメリカ合衆国スクリプス海洋研究所に短期留学していたため、この期間は本課題研究を推進することができなかった。このことが次年度使用額が生じた最大の理由である。 また、当初想定していたよりも合成研究が順調に進展したことにより、有機合成関連試薬の購入が大幅に抑えられたことも、次年度使用額が生じた理由である。 現在行っている抗寄生虫活性試験の結果にもよるが、次年度は、(1)ケミカルバイオロジー研究に関連する生化学試薬の購入額、および(2)新規類縁体合成のための有機合成関連試薬の購入額が増えることが予想される。ケミカルバイオロジー研究のうち、ペプチドマスフィンガープリンティングに用いる消化酵素や、ウェスタンブロッティングに用いる抗体は高価であり、初年度の余剰分は、これらの購入のための費用に充てる。
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