研究課題/領域番号 |
18K14349
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
橋本 拓哉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (10783714)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放線菌 / 合成生物学 / 生合成遺伝子クラスター / 異種生産 / 二次代謝産物 / BAC library / 生物有機化学 |
研究実績の概要 |
陸上微生物由来では最大の員環数を持つ60員環化合物quinolidomicinの生合成遺伝子クラスターについて異種発現を試みた。ドラフトゲノムシーケンスによって215 kbにわたる推定生合成遺伝子クラスター領域の全長がその生合成に必要であることが予測された。人工細菌染色体(BAC)pKU518を用いて生産菌であるMicromonospora sp. JY16株のBAC libraryを作成した。作成したBAC libraryから、目的の215 kbの推定生合成遺伝子クラスターの全長を含むBACクローンpKU518quiP9-L5を得た。このBACおよび生合成遺伝子クラスター内の転写因子qnmRI、qnmRIIをタンデムにつなぎ、一つのオペロンとして発現させるベクター、pKU460-sav2794p-qnmRIRIIについてS. lividans TK23ΔredDX株を宿主として発現させたところ、Quinolidomicinの異種発現に成功した。生産したquinolidomicinの高分解能マススペクトルにより解析したその結果、報告されていた構造には誤りがあることが示唆された。そこで野生株であるMicromonospora sp. JY16株から化合物を単離精製し、高分解能マススペクトルと1H-15N HMBC測定によって、発色団であるベンゾキノンにおける5位の置換基が報告されていた水酸基ではなく、アミノ基であることを明らかにした。次に化合物生産の収量増加を目指し、異種発現の宿主について検討した。S. avermitilis SUKA株を宿主として、生合成遺伝子クラスター内の転写因子qnmRI、qnmRIIについて過剰発現株を構築した。しかしながら、現時点では望む化合物の生産は確認できていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S. lividans TK23ΔredDXを宿主として、当初の目的であった200 kbを超えた生合成遺伝子クラスターを利用した異種宿主における化合物生産に成功した。これまで報告されている異種発現された最大の生合成遺伝子クラスターは我々の知る限り180 kbにとどまっており、今回これを大きく上回ることができた。この結果から原理的にはおよそすべての大きさの微生物二次代謝産物の生合成遺伝子クラスターの取得および発現ができることを示した。また当初予想外であったquinolidomicinの構造訂正についてもその平面構造を確立した。しかしながら、S. lividans TK23ΔredDXを宿主とした際のquinolidomicinの収量は 0.1 mg/Lと非常に低く、今後効率的な化合物生産へとつなげるには遺伝子の発現量の向上が課題と考える。
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今後の研究の推進方策 |
低収量の改善を目指すべく、強制発現によって生合成遺伝子クラスターを発現させることができる転写因子qnmRI、RIIについて、さらに効率よく宿主内で発現させ、収量の向上を目指す。そこで第一の今後の検討事項として、生合成遺伝子内に2つある転写制御因子であるqnmRI、RIIについて、それぞれを個別のvectorにクローニングコンストラクトを作成し、sav2794 promoterの支配下でS. avermitilis SUKAを宿主として強制発現させることを検討する。現在はタンデムな配列で発現させているため、下流側の遺伝子であるqnmRIのS. avermitilis SUKA内の遺伝子発現が十分でない可能性がある。また転写因子のメッセンジャーRNAを安定化させる因子をそれぞれの遺伝子の上流に付加することも検討する。もしさらなる収率の向上に成功した場合、2つある転写因子のうち、必要な転写因子の組み合わせについて検討する。さらに転写因子導入株、非導入株における生合成遺伝子の転写量をRT-PCRあるいはRNAseqといった手法にて比較し、生合成遺伝子クラスター内のプロモーター領域の推定についても試みる。
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