研究課題/領域番号 |
18K14353
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大黒 耕 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (60614360)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子糊 / 多価相互作用 / タンパク質間相互作用 / 光制御 / siRNA / 組織浸透 |
研究実績の概要 |
2018年度は、タンパク質機能の制御を達成するための鍵化合物である「光分解性分子糊」の合成に取り組んだ。当初の予定では、直鎖状高分子を基盤とした分子設計を検討していたが、タンパク質-タンパク質間相互作用の制御に着目し、嵩高い骨格をもつ樹状型(デンドリマー型)分子糊を新たに設計・合成した。得られた分子糊は、期待通り紫外光照射に鋭敏に応答し、分解することを確認した。また、この光分解に伴って、タンパク質への接着性が大幅に低下し、分子糊が速やかにタンパク質表面から解離することも見出した。 光分解性分子糊は、接着したタンパク質の表面を被覆し、他のタンパク質と相互作用できない状態になることを、モデルタンパク質である肝細胞増殖因子(HGF)とその受容体タンパク質(c-Met)の相互作用解析によって明らかにした。一方で、光照射によってこの分子糊が解離する結果、この相互作用を光照射部位選択的に活性化できることも見出している。これを利用して、HGF/c-Metのタンパク質間相互作用を時空間的に光制御することで、シグナル伝達を任意に誘導し、細胞の遊走をも自在に活性化することに成功した。 また、タンパク質の光操作技術開発の過程で、siRNA表面にタンパク質を光で固定化する手法を開拓し、これを利用したsiRNAの輸送体の開発も行った。鉄輸送タンパク質であるトランスフェリンを担持したsiRNAがきわめて高い組織浸透性を示し、深さ70マイクロメートルまでsiRNAを送達することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定とは異なる分子設計を採用したが、これによって直鎖状高分子特有の分子量分布による性能のばらつきが解消され、より精密な制御が可能になった。事実、樹状型分子糊を用いることで、光刺激に応じて鋭敏にタンパク質間相互作用をスイッチングすることに成功し、期待通り細胞機能の制御につなげることができた。 当初計画していたものは、細胞内での光制御ではあるが、設計した分子の有効性とコンセプトの実証は成功しており、また細胞外のタンパク質機能制御も同様に学術的・応用的にも重要であることから、順調に研究が進展しているものと判断している。 また、これとは別に、組織浸透性のsiRNA輸送技術を開発し、深組織へのsiRNA送達に成功した。これは、当初の計画から派生した研究で、予期していなかった成果である。
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今後の研究の推進方策 |
細胞外のタンパク質間相互作用を光制御することに成功しているが、樹状型分子糊も細胞膜透過性を有していることが明らかになっており、同様の分子を用いて細胞内のタンパク質機能制御を行うことが可能である。今後は、既に合成が完了している樹状型の光分解性分子糊を用いて、細胞内で機能するタンパク質群を対象として研究を進める予定である。一例として、プログラム細胞死(アポトーシス)を誘導するタンパク質caspase 3や、ゲノム編集のツールとしても知られるCas9などを扱い、これらの活性光制御に挑戦する。 また、組織浸透性siRNA輸送体は、特に重篤な症状を与える脳疾患の治療に有効であると期待している。ここで確立した技術を利用し、脳組織への効率的なsiRNA輸送にも挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度使用額の端数として生じた。次年度、物品費等にて使用する予定である。
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