研究実績の概要 |
真核生物のmRNAは5’末端にキャップ構造、3’末端側にアデニンが連続したポリA鎖という特殊な構造を持つ。キャップに結合する翻訳開始因子であるeIF4EにeIF4Gが結合し、ポリA鎖に結合するタンパク質であるPABPがeIF4Gと相互作用する。このmRNAの環状複合体形成は、mRNAの安定化やリボソームのリサイクル促進による翻訳反応効率化に寄与することが知られている。本研究ではこの環状構造形成を2次元的に模倣することでRNAの翻訳効率を上昇させられないかと考えた。2つのUTR間で塩基対を形成しうるmRNA, ds_Rlucを設計・合成し、2つのコントロール配列ss_Rluc, cap-polyA_Rlucととも真核生物無細胞翻訳系(ウサギ網状赤血球溶解液)にてこれらを翻訳し、ルシフェラーゼアッセイ法によりその効率を比較した。その結果、ss_Rlucに比較し、ds_Rlucからはおよそ3倍の翻訳産物が生じた。加えて、ds_Rlucは、5‘キャップ構造及びポリA鎖を持つcap-polyA_Rlucとほぼ同等の翻訳効率を示した。続いてds_Rluc,およびss_Rlucの翻訳液中での安定性を評価した結果、安定性は同程度であり両者に差はなかった。これらの実験結果から、UTR間で塩基対を形成することで環状構造を取りうるds_Rlucの遺伝子発現効率が上昇したこと、およびその効率上昇はRNAの安定性向上に起因しないことが分かった。期待したとおり、mRNAが環状構造を取ることによりリボソームのリサイクリングが促進された可能性が示唆された。本研究結果を学術雑誌 Nucleosides, Nucleotides and Nucleic Acids, 1-9(2019) に発表した。
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