本研究ではENPP1 (ecto-nucleotide pyrophosphatase/ phosphodiesterase 1)という細胞外に触媒ドメインを持つ膜タンパク質に着目し、その酵素活性を利用したプロドラッグ技術の開発を目指している。ENPP1は悪性度の高い脳腫瘍や乳がんで発現量が著しく高いことが示され 、がん幹細胞性の獲得・維持に必要であることが報告されているため、ENPP1を標的とすることは「がん幹細胞を標的」とすることとなり、神経膠芽腫やトリプルネガティブ乳がんなど悪性度が高く、有効な治療法の乏しいがんに対して効果的な治療法を提案できると考えられる。 これまでに、ENPP1が細胞系においてmGMP基を特異的に認識し加水分解する活性を持つことを見出していたため、臨床等で用いられている抗がん剤にmGMP基を付与しENPP1を過剰発現する細胞においてのみ細胞毒性を示す化合物の開発を目指した。抗がん剤の候補としてSN-38やを選択しmGMP基によるプロドラッグ化を試みたところ、mGMP基の合成上の不安定性により合成することが困難であった。TokyoGreen (TG) をmGMP基でプロドラッグ化することは可能である点から、プロドラッグ化する水酸基の酸性度が合成できるかどうかの鍵になると考えられた。検討の結果、反応条件を検討することによりTGに比べて酸性度の低いクマリン (SN-38と同程度の酸性度を持つ) を用いてもmGMP化できることが明らかとなり、様々なフェノール性水酸基のmGMP化が可能であることが示唆された。
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