研究課題/領域番号 |
18K14363
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
和田 郁人 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 特任研究員 (90760843)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アンチセンス / 安全性 / 核酸医薬 |
研究実績の概要 |
アンチセンスは近年、急速に実用化が進んでいる新たなタイプの医薬であるが、その副作用の一つして腎毒性が確認されている。当該年度は、アンチセンス薬が腎臓への蓄積を回避するための構造として、主に分子量の調節が可能な多量体形成アンチセンスの設計を行い、実際に合成および機能評価を実施した。 腎臓から尿排泄の経路をたどる入り口として糸球体ろ過を経るが、過去の研究から、このろ過で通過できる分量量やサイズはおおよそ見当がつけられている。したがって、先行論文を参考に、アンチセンスが3または4量体を形成する30-50 kDaの多量体を設計、合成した。実際に、native page等のゲル電気泳動評価により、設計したアンチセンスが多量体形成を効率よく形成可能であることを確認した。一方で、この第一世代の多量体形成アンチセンスを実際に野生型マウスに尾静脈より投与したところ、標的となる肝臓内において単量体のアンチセンスよりも活性が大幅に減弱する結果となった。一方で、肝臓への蓄積は単量体のアンチセンスと比較して多量体形成アンチセンスの方が多い傾向にあった。以上より、活性が減弱した原因は、これまでの研究知見から多量体形成アンチセンスは、その多量体形成部位の構造が生体内で非常に安定であるために、標的である肝細胞内でうまく活性本体(アンチセンス)をリリースできなかったためと考察した。そこで、多量体形成部位を細胞内でより不安定な構造に変更した第二世代の多量体形成アンチセンスの設計を行った。再度、野生型マウスに同様の投与実験を実施したところ、単量体アンチセンスと同様の活性にまで回復させることに成功した。 以上より、当該年度は多量体形成アンチセンスの多量体形成部位の安定性が活性に大きく影響を及ぼすことを明らかにし、実用化に必要な重要な知見を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の研究計画は、腎臓への過剰な蓄積を回避するアンチセンスのいくつかの設計構想を実際に合成し、それぞれの設計について実現可能性を判断することである。 まず一つ目の設計である多量体形成アンチセンスについて、実際の合成及び機能評価を行った。糸球体からろ過される分子量は30-50 kDa以下とされているため、まずはこれに近い分子量となる3または4量体を形成するアンチセンスの設計の条件検討を行うことで一般性を見出すこととした。機能評価及び改良を繰り返すことで、①多量体形成アンチセンスが多量体を形成するための配列設計法、②多量体形成アンチセンスが実際に生体内で活性を示すための化学修飾法、に関する重要な知見が得られ、実際に生体内においてアンチセンスとしての機能を維持したまま多量体を形成可能な設計が見出されたため、実現可能な設計であると判断した。したがって、本研究項目は、概ね計画通りに進んでいるものと考える。 一方で、もう一つの腎蓄積回避設計として、脂溶性を高めたアンチセンスを着想し、コレステロールや脂肪酸などの脂溶性分子接合型アンチセンスの設計を行った。アンチセンスの脂溶性が高くなるにつれて、合成や精製の難易度が高くなることが予想されたが、実際の合成は順調に完了に至った。コレステロールやパルミチン酸を接合したアンチセンスを実際に野生型マウスに尾静脈より投与したところ、活性は大きく減弱しないことを確認できた。以上より、本研究項目に関しても、計画通りに進んでいるものと考える。 以上より、当該年度の全体を通して、申請時の計画を順調に遂行できているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は当初の計画通りに、アンチセンス薬の腎臓への過剰な蓄積を回避する設計案が実際に合成可能であり、薬としての活性を生体内において維持することのできる構造体も数タイプ見出すことに成功した。したがって、今後は、実際に腎臓へのアンチセンスの蓄積がコンセプト通りに軽減され得るのかを検証する。また、本研究課題で提案するどの設計が腎蓄積を軽減するにおいて最適かどうかを見極める。 具体的には、各設計のアンチセンスを動物実験用にスケールアップ合成を行い、野生型マウスに対して投与試験を実施する。腎臓中のアンチセンスは、enzyme-linked oligonucleotide sorbent assay(ELOSA)にて定量を行う。経時的に腎臓へのアンチセンスの蓄積を観察し、組織内最大濃度を比較することにより、腎臓への蓄積を軽減する設計の優劣を判断するものとする。 アンチセンス薬は、腎臓へのその過剰な蓄積により腎障害を招くと考えられているため、腎臓へのアンチセンスの暴露量を軽減させることが、腎障害を回避する有効な手段と考えられる。したがって、本研究はアンチセンス開発の障壁となっている腎毒性という問題を解決し得る重要な研究と言える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初に想定したよりも、当該年度の研究が順調に進行したため、アンチセンスの合成にかかる費用が計画以下となったため、次年度使用額が生じた。 今回生じた次年度使用額については、これまでの研究が順調に進んでいることもあり、次年度に計画している動物試験を当初の計画よりも厚くするために使用することとする。具体的には、動物数や評価するタイムポイントを増やすことで、より正確な研究結果を得られるように計画している。
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