研究課題/領域番号 |
18K14365
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 清志 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (20611297)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 栄養屈性 / 栄養応答 / イネ / 根 / 屈性 |
研究実績の概要 |
本研究はイネで新規に発見した、植物の根が栄養のある方向に向かって伸びる栄養屈性の解析である。 栄養屈性に影響を与える遺伝的要因を明らかにするために、栄養屈性変異体の原因遺伝子候補を1つに絞り、この遺伝子の破壊系統をゲノム編集を用いて作出した(T1種子を取得)。この変異体の栄養屈性が欠損していれば、原因遺伝子の同定となる。 栄養屈性に影響を与える環境要因を明らかにするために、world rice core collectionの中から種子根及び冠根において栄養屈性を示す系統を見出し、本研究で確立した栄養屈性強度の評価方法を用いて、どの栄養が栄養屈性強度に影響を与えるかを評価した。栄養屈性の屈性刺激はアンモニウム、その他の多量必須栄養は屈性刺激ではないことを確認した。このアンモニウムに対する栄養屈性は、興味深いことに、リン酸が致命的な影響を与えることを明らかにした。すなわち、リン酸が栄養源に存在しない場合、屈性刺激があったとしても根は栄養屈性を示さなくなり、リン酸が存在する場合、リン酸濃度に応じた屈性強度を示す。リン酸濃度が低い場合は低いアンモニウム濃度に対して強い屈性を示し、リン酸濃度が高い場合は高いアンモニウム濃度に対して強い屈性を示す。これは窒素栄養への屈性感度を屈性刺激ではないリン栄養が制御していることを意味し、これまで知られている屈性には見られていない現象である。 この性質は、栄養屈性の系統間差を調査する上でリン酸とアンモニウムの濃度条件に留意すべきことを示し、本研究では少なくとも日本晴は様々な濃度条件において常に主根で栄養屈性を示さない系統であることが分かった。 遺伝解析を行うために、栄養屈性強度の異なる親系統からなるF4集団約100系統を作出し、F5種子を収穫し始めた。次年度には次世代シーケンシングを用いたMutMap法などにより、アソシエーション解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゲノム編集により得られた変異体の温室での生育が非常に悪く、収穫できる種子数が非常に少なかった。変異体の種子増産のため、グロースチャンバー等で種子増殖が可能な栽培条件を確立しT2種子を収穫したのちに、変異体の機能解析を行う必要が生じた。現在栽培条件は確立できT1個体は順調に生育している。 また当初予期しなかった栄養屈性におけるリンの役割が明らかになったことから、栄養屈性を強く示す系統とほとんど示さない系統を用いたトランスクリプトーム解析を保留する必要があった。今年度に後者の系統の中で、少なくとも日本晴が様々なリンとアンモニウムの濃度条件で常に反応性が低いことを示すことができたことから、実験条件は決定できる。 栄養屈性を強く示す系統とほとんど示さない系統の交配集団F3世代を用いてアソシエーション解析をする予定であった。表現型の遺伝率を確認し、各系統の表現型の安定とアソシエーション解析による原因領域の検出感度を向上させるためにF5世代を用いることとした。現在そのF5種子の収穫が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
ゲノム編集で得られた変異系統の種子を十分な数に増殖し(夏ごろに収穫予定)、これら変異体が栄養屈性を示さなくなることを示す。 栄養屈性を強く示す系統とほとんど示さない系統の交配F5集団について栄養屈性強度の評価を行い、屈性反応が強いバルク集団と弱いバルク集団それぞれからバルクDNAを 回収しアソシエーション解析を行う。 決定したリン酸とアンモニア濃度条件で屈性試験を行い、トランスクリプトーム解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたトランスクリプトーム解析を後ろ倒しにしたためである。 本研究において栄養屈性が屈性刺激であるアンモニウムの他に、屈性刺激ではないリンが栄養屈性に致命的な影響を与えることを発見し、また解析集団としてF3世代では精度の高いアソシエーション解析の材料として不十分であることが予想された。リンの影響は今年度に評価できたので解決し、解析集団はF5まで自殖を進め、次年度にトランスクリプトーム解析を行う。
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備考 |
『A positive tropism of rice roots toward a nutrient source』はPlant and Cell Physiologyの61巻表紙に選出された。
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