細菌の細胞間情報伝達機構の1つであるクオラムセンシング(QS)機構は、病原性因子の生産やバイオフィルム形成などの制御に関わっていることが知られている。本研究では、活性汚泥から単離したRoseomonas sp. TAS13株の有するペニシリンGアシラーゼ(PGA)がグラム陰性細菌のQS機構でシグナル分子として利用されるアシル化ホモセリンラクトン(AHL)を加水分解する特性に着目した。アシル鎖長がC6~C12のAHLを添加・未添加の条件で培養したTAS13株の培養液からタンパク質を抽出し、二次元電気泳動によりタンパク質発現パターンを比較した。その結果、AHL添加条件で共通して未添加のコントロールよりも発現量が減少するタンパク質やC12のAHLでのみ減少するタンパク質の存在が明らかとなった。また、TAS13株のゲノムから同定されたPGAの1つであるAirPを標的遺伝子として、各AHLの添加・未添加条件でmRNAの転写量を比較したところ、C12のAHL添加時にairPの発現量が最大2.1倍に増加した。C12のAHLはクローニングしたAirPの分解活性が最も高い基質であることから、AHLの添加によりAirPの発現が誘導された結果として分解活性が向上することを示唆している。 Roseomonas aerilataとRoseomonas stagniは、Roseomonas sp. TAS13株と比べてβラクタム系抗生物質耐性やAHL分解活性が低く、それぞれの細菌からクローニングしたペニシリンGアシラーゼ自体のAHL分解活性も低かった。これらの結果から、細菌が保有するPGA由来のβラクタム系抗生物質耐性とAHL分解活性の高さには相関がある可能性が示された。
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