昨年度取得した新規シトクロムP450酵素の機能を調べるため、この酵素遺伝子を含む生合成遺伝子クラスターから生産される代謝物の詳細な解析を進めた。その結果、オキサゾロマイシン類縁化合物の一種で、ポリエン骨格の末端にニトロ基を持つラホヤマイシンであることが強く示唆された。この化合物の生合成機構は解明されておらず、そのニトロ基は本研究で発見した酵素によって導入されると予想されることから、このシトクロムP450酵素は前例のない脂肪族化合物に対するニトロ化酵素であることが期待される。最も重要なニトロ化反応の基質を調べるため、まず昨年度一酸化窒素合成酵素の阻害剤の添加によって蓄積が見られた化合物を精製してin vitro反応を行った。しかしながら、ニトロ化反応は観察されなかった。次にポリケタイド合成酵素のキャリアタンパク質 (ACP) を精製し、何種類かのアシルCoAをロードすることでアシルACPを調製した。またこれらの構造を模倣したチオエステル化合物を化学合成により調製した。しかしながら、これらいずれに関してもニトロ化反応の進行は観察されなかった。今後、他の化合物を基質に用いて酵素反応条件を詳細に検討すること、さらにこれまで困難であった遺伝学的な解析を別のアプローチから進め、ニトロ化のタイミングを明らかにすることが重要であると考えられる。これらの知見を元に、基質特異性の改変などを進めることで産業上有用な脂肪族ニトロ化酵素が得られる可能性がある。
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