研究課題/領域番号 |
18K14373
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
黒田 真史 大阪大学, 工学研究科, 助教 (20511786)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | テルル / セレン / 半導体ナノ粒子 / バイオプロダクション |
研究実績の概要 |
今年度は特に、Pseudomonas stutzeri NT-Iのテルル(Te)代謝特性の解析に注力して研究を進めた。 1 L容ジャーファーメンターに0.1 mMの亜テルル酸(Te(IV))を含むTryptic Soy Broth(TSB)培地600 mLを添加し、好気条件で培養した。培養各時点での水相および固相のTe濃度を測定し、初期に添加したTe量との差から揮発化分を見積もった。Teの揮発化に及ぼす培養条件の影響を検討したところ、温度は揮発化に大きく影響し、20~45℃の範囲では20℃が最も効率的であることが明らかとなった。また、pHについては6~9の範囲で大きな影響はなく、通気量については0.5 L/minの時に最も高いTe揮発化率を示した。続いて、上記検討によって見出した最適条件である20℃、pH7、通気量0.5 L/minで培養を行ったところ、Teは高速で水相から除去され、24時間の培養により初期に添加したTeの83%が揮発化した。これまでに報告されているTe揮発化微生物は、最も優れたものでも初期添加量の数%が揮発するのみであることから、最適条件で培養したNT-I株によるTe揮発化は極めて優れたものであると言える。GC-MSを用いた定性分析によって、生成した揮発性Te化合物はジメチルジテルライドを主成分とすることが明らかとなった。Te(IV)からジメチルジテルライドに至る代謝経路において、半導体ナノ粒子の前駆体となるテルロール化合物が生成している可能性が高いことから、NT-I株はテルライド系半導体ナノ粒子の合成細菌として有望であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに報告のない、細菌による極めて活発なテルル代謝を明らかにできたことは、テルライド系半導体ナノ粒子の生物学的合成の実現に向けた大きな進展であると言えることから、おおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
トランスクリプトーム解析によるセレンおよびテルル代謝関連遺伝子群の推定に注力する。NT-I株を亜セレン酸添加/亜テルル酸添加/非添加の3種のTSB培地で培養し、経時的に菌体を採取し、全RNAを抽出する。全mRNAの塩基配列を次世代シーケンス解析により決定する。実験系ごとに各遺伝子の転写量を正規化した後、非添加系に対してセレン/テルルを添加した際に高発現した遺伝子群を抽出する。また、結果を統計学的に解析することにより亜セレン酸代謝、元素態セレン代謝、亜テルル酸代謝、元素態テルル代謝のそれぞれに特異的に関わる遺伝子群や共通して関わる遺伝子群を推定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、Pseudomonas stutzeri NT-Iによるテルル代謝の培養工学的特性の解析について大幅に進展させることに注力し、分子生物学的解析に着手しなかったため、関連試薬や塩基配列解析等の外注費用として計上していた予算に不使用が生じた。次年度は繰越分を使用してトランスクリプトーム解析等の分子生物学的解析に注力する予定である。
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