酵素や微生物といった生体触媒は常温常圧条件で高選択的かつ高効率な反応を進行させるという特長を有する。こうした生体触媒の特長を活用した工業プロセスの実用化は、持続可能な開発の実現という社会の要請に応える。一方、NADHやNADPHなどの補酵素や電子伝達体からのエネルギー供給を必要とする酸化還元酵素を用いるプロセスの実用化においては、反応の進行に必要な高価な補酵素や還元力をどのように反応系に供するのかが課題である。本研究では、この酵素反応への還元力を、光エネルギーによって供給する新規な反応系を開発することでこの課題解決を目指した。微生物に対して光エネルギーを化学エネルギーへと変換する能力を付与すること、具体的には分子光触媒として機能するポルフィリン色素を微生物に生合成させ、色素による光増感反応と還元酵素(例えばヒドロゲナーゼによる水素生産)との共役によって光駆動型生体触媒反応の構築を目指した。これにより、色素合成と物質生産の能力を同時に付与した組換え大腸菌を特定の条件で培養し、回収した菌体がそのまま反応に供される生きた光触媒、“生体光触媒”を創製することができる。2019年度は、(1)大腸菌の培養液に大量合成されたポルフィリン色素(前年度に達成)を用いた(人工)補酵素の光触媒的還元、(2)培養液から精製したポルフィリン色素を用いた人工補酵素(メチルビオローゲン)の光還元と水素生成酵素との共役による光バイオ水素生産、について成果を得た。一方で、当該光バイオ水素生産の量子収率の改善、ポルフィリン色素の大量生合成と同時に同じ菌体内で物質生産酵素を生産させた生体光触媒系の構築、ポルフィリン色素を用いた天然補酵素の光還元、といった点においては、光エネルギー駆動型の生体触媒反応の構築に向けてさらなる検討の余地が残る。
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