研究実績の概要 |
昨年度までの解析により、麹菌ではヘキソキナーゼ(HxkA)とグルコキナーゼ(GlkA)が独立してカーボンカタボライト抑制の制御に関与していることが示唆された。麹菌のアミラーゼ生産はマルトースによって誘導され、グルコースが存在するとカーボンカタボライト抑制によって抑制される。一方で、アミラーゼ遺伝子の発現を誘導する転写因子AmyRの核移行はグルコースによっても誘導され、カーボンカタボライト抑制を制御する転写因子CreAの破壊株では、グルコースを炭素源としたYPD培地でもアミラーゼの生産が誘導されることが明らかとなっている。グルコースによるアミラーゼ生産へのHxkAとGlkAの関与を調べるため、creAとの二重破壊株を作製してアミラーゼ活性を比較した。YPD培地で培養後のアミラーゼ活性を調べた結果、creAとhxkAの二重破壊株のアミラーゼ活性は、creA破壊株の活性と比較して約50%低下した。この結果から、HxkAがグルコースによるAmyRの活性化に関与していることが示唆された。 培地中に分泌されたα-アミラーゼの一部は、麹菌の細胞壁に吸着されることが知られており、細胞壁の構成多糖であるキチンへのα-アミラーゼの吸着が、同じく細胞壁の構成多糖であるα-1,3-グルカンによって阻害されることが示唆されている。YPD培地で培養したhxkA破壊株では、野生株やglkA破壊株と比較して細胞壁に吸着されるα-アミラーゼの割合が著しく増加し、分泌されたα-アミラーゼの90%以上が細胞壁に吸着されていた。hxkA破壊株は、β-1,3-グルカンに吸着するコンゴレッドに対して野生株よりも強い感受性を示したことから、細胞壁に含まれるα-1,3-グルカンの量が減少していることが示唆された。
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