実施計画に従い、組換えによる新奇酵素の大量発現および精製を実施した。その結果、十分量の当該酵素を完全精製することができた。次に当該酵素の反応条件 や諸性質解明を試みた。その結果、当該酵素がペルオキシダーゼ活性だけでなく、脂肪酸の過酸化反応も触媒できることがわかった。さらに、解析が比較して容易なタンパク質をリグニンの炭素鎖に見立てた分解実験により、当該酵素が過酸化水素存在下で基質となる電子供与体中にカーボンセンターラジカルを生じさせていることが示された。このカーボンセンターラジカルはリグニンの分解過程でも生じる重要な反応中間体であり、白色腐朽菌のリグニンペルオキシダーゼが触媒する反応などで確認されている。 一方で予想外なことに、当該酵素が過酸化脂肪酸や過酸化水素だけでなく、過酸化タンパク質を還元可能であることが基質特異性を調べる中で明らかになった。過酸化タンパク質を基質として還元可能なペルオキシダーゼはこれまで発見されておらず、初の事例となる。また、当該の遺伝子を破壊すると次亜塩素酸等の酸化剤に対して著しく感受性が増加することがわかった。リグニンを分解することが当該酵素の細菌における役割と当初は考えていたが、これらの結果から、幅広く種々の過酸化物から菌体を守ることが本来の当該酵素の役割であることがわかってきた。さらに、当該酵素のオーソログを持つ細菌のほとんどがグタチオン(GSH)合成酵素を持っていないことがわかった。これは当該酵素の機能が、GSHと同様に細胞内で酸化物から細胞を守る役割である事を示しており、上述の考えを裏付けるものとなった。 以上より、当初の仮説とは異なる結果ではあったが、最終的な目標である当該酵素の細菌における役割および進化生物学的な機能の解明を達成した。また、当該酵素が付与する抗酸化能がルーメン内での共生に寄与している可能性が示された。現在、論文を投稿中。
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