本研究では、申請者が新たに同定した微生物の酸素センシングに関わるセンサータンパク質より、ヘムエリスリンをセンサードメインとして持つヒスチジンキナーゼとフォスホジエステラーゼの2つのセンサータンパク質について研究を行っている。N末端にヘムエリスリンドメインとC末端にヒスチジンキナーゼドメインを持ったセンサーヒスチジンキナーゼであるBhr-HKに関しては、全長タンパク質の結晶化スクリーニングを行ったが、結晶は得られなかった。そこで、酸素(及び酸化還元)センシングに重要なヘムエリスリンドメインのみのタンパク質を発現・精製し、結晶化スクリーニングを行った。その結果、1.5 A分解能で酸化型の構造を決定することができた。酸素結合部位と考えられる鉄二核中心の一方の鉄には、塩化物イオンが配位していた。しかしながら、結晶化の再現性が良くないために、還元型の構造解析は行えなかった。リン酸化されたBhr-HKからレスポンスレギュレーターへのリン酸基転移反応をPhos-tagアクリルアミドゲルを用いて調べた。また、アセチルリン酸を用いて、レスポンスレギュレーターのレシーバードメインのAsp68がリン酸化部位であることを確認した。結晶構造解析、分光学的解析、及び自己リン酸化活性等の生化学的データを合わせて、現在、投稿準備中である。ヘムエリスリンドメインを持つこれら2つのセンサータンパク質に関する研究から、微生物において、ヘムエリスリンドメインを持ったセンサータンパク質は、酸素を直接結合するのではなく、酸素によって引き起こされる酸化を感知するセンサー、つまりレドックス(酸化還元)センサーとして機能していることが、示唆された。本研究によって、微生物のセンサータンパク質におけるヘムエリスリンドメインの役割の一端を解明することができた。
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