ビワ(バラ科)は、バラ科植物に広く分布する青酸配糖体の生合成経路を基盤に、フェニルアセトアルドキシムをハブとして、(2-ニトロエチル)ベンゼンとフェニルアセトニトリルを生合成する経路を獲得したと推察される。特にニトロ基を有する天然物は、植物、微生物と動物を併せても200化合物ほどしか見出されておらず、その生合成に関する知見は限られている。そこで本研究の目的は、ビワのフェニルアセトアルドキシムをハブとした含窒素化合物群の生合成経路を遺伝子と酵素レベルで解明し、含窒素化合物群の生合成酵素遺伝子の分子進化を明らかにすることを目的として研究を行い、以下の成果を得た。 1. RNA-seq解析により、ビワの花で高発現するシトクロムP450遺伝子を選抜した。これらを出芽酵母とタバコで発現し、機能解析を行うことで(2-ニトロエチル)ベンゼンの生合成に関与する2種のシトクロムP450、CYP79D80とCYP94A90を見出した。 2. ビワの花の(2-ニトロエチル)ベンゼン放出パターンと生合成遺伝子の発現パターンが一致することを示した。 3. CYP94Aは脂肪酸ω水酸化酵素として知られていた。そこでCYP94A90の脂肪酸に対する活性を評価した結果、脂肪酸ω水酸化活性を示した。さらにビワ以外の植物に由来するCYP94Aをクローニングし、フェニルアセトアルドキシムに対する活性を評価した結果、(2-ニトロエチル)ベンゼン合成活性を示した。これらのことからCYP94Aはニトロ基合成活性を示す、プロミスカスな脂肪酸ω水酸化酵素であることが明らかになった。
|