研究課題
本研究は稲わらの高品質化のため、稲わらの元となるイネ茎葉のシュウ酸含有量の低下を目指すとともにシュウ酸蓄積機構を明らかにするものである。まず、イネのシュウ酸蓄積機構におけるICLの影響を調査するため、シュウ酸合成経路の1つイソクエン酸経路の主要酵素であるイソクエン酸リアーゼ(ICL)の発現解析を行った。その結果、ICLが暗処理開始後6時間でイネの葉全体において発現を開始することが明らかになり、暗所のシュウ酸蓄積にICLが寄与する可能性が示された。また、RNAi法を用いたICLノックダウン系統の作出を試み、発現が低下している個体を選抜した。次に、イネのシュウ酸含有量の品種間差を明らかにするために、世界のイネ・コアコレクション(農研機構より分譲)のうち約60種の葉のシュウ酸含有量をCE-QQQ-MSを用いて測定した。その結果、ほぼすべてのインディカ型および熱帯ジャポニカ型のシュウ酸含有量がジャポニカ型のものよりも有意に低いことを明らかにした。さらに、シュウ酸蓄積において遺伝子レベルで明らかにするため、コシヒカリとタカナリの正逆染色体部分置換系統を用いた代謝解析を行った。トランスクリプトーム解析の結果と併せて解析した結果、シュウ酸蓄積への影響が大きいと考えられる2か所の染色体部分置換領域においてシュウ酸蓄積候補遺伝子(アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)様遺伝子、クエン酸シンターゼ(CS)様遺伝子)を見出した。これらの遺伝子以外のシュウ酸蓄積遺伝子を探索するため、親品種とシュウ酸含有量が異なった染色体部分置換系統と親品種との戻し交雑を行い、得られたF1種子の自殖によりF2個体を得ることが出来た。
2: おおむね順調に進展している
ICLが夜間に発現を開始することが明らかになり、夜間のシュウ酸蓄積をイソクエン酸経路が担っている可能性を示せたため。また、シュウ酸蓄積機構がコシヒカリとタカナリという2品種間だけでなく、インディカ型品種とジャポニカ型品種とで異なる可能性を見出すことが出来た。さらに、コシヒカリとタカナリの正逆染色体部分置換系統の解析からシュウ酸蓄積候補遺伝子を見出すことが出来たため。
暗所におけるICLの発現がシュウ酸蓄積に及ぼす影響を明らかにする。また、RNAi法によるICLノックダウン系統を確立し、ICLの発現抑制がシュウ酸蓄積に及ぼす効果を解析する。正逆染色体部分置換系統の解析より見出されたシュウ酸蓄積候補遺伝子の解析を行うことにより、これらの遺伝子がシュウ酸蓄積に及ぼす影響を明らかにする。メタボローム解析を行うことにより、特定の染色体領域がシュウ酸およびその周辺代謝に及ぼす影響を明らかにする。また、シュウ酸蓄積量に影響を及ぼす遺伝子座の特定を行うため、親品種との戻し交雑によって得られたF1種子の自殖により得られた次世代のF2種子における解析を行う。
(理由)COVID-19予防のため、参加予定であった学会が中止になり、また、出張が禁止となったため旅費のための予算が執行できなくなったため。(使用計画)次年度においても同様の事情により旅費の執行が困難である場合には、質量分析装置CE-QQQ-MS測定のための経費(試薬、抽出カラム、キャピラリ、バイアル等の購入、メンテンナンス経費など)などのほか、オンラインで参加可能な学会への発表参加や学術雑誌への投稿および印刷代などの経費として、次年度予算分として計上した研究費と併せて支出する予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
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