研究実績の概要 |
H31年度は、L-アルギニン酸化酵素 (AROD) の祖先型設計と機能解析に関する研究を実施する過程で得られた、基質選択性の広い新規L-アミノ酸酸化酵素 (LAAO) に関する酵素化学的諸性質の検討と、D-アミノ酸誘導体の光学分割への応用に向けた研究を実施した。まずはデータベース検索により同定したPseudoalteromonas piscicida由来LAAO候補配列を鋳型とし、独自の配列解析ツールと祖先型設計を組み合わせることで、祖先型LAAO (AncLAAO) を設計した。AncLAAOについて20種類のL-アミノ酸を用いて基質選択性を評価した結果、L-GlnやL-Phe, L-Trpなどの10種類以上のL-アミノ酸に対し、反応性を有することが判明した。酵素学的諸性質の検討を行った結果、kcatの値は6~22 /sec, Km値は0.4~12 mMの範囲に分布していた。またAncLAAOは従来のLAAOとは異なり、大腸菌発現系において可溶性画分に大量に取得することができるなど (>50 mg/L)、応用研究への展開が容易なことが示唆された。 次にAncLAAOを用いて、ラセミ体のアミノ酸誘導体からD体アミノ酸の光学分割が可能か検討した。結果、16種類のラセミ体フェニルアラニン、及びトリプトファン誘導体に関して、高い光学純度 (>99% ee, D体) かつ収率 (>75%) でD体アミノ酸の光学分割が可能なことを証明した。以上の結果からAncLAAOはD体アミノ酸誘導体の光学分割への応用が期待できる、基質選択性の広い新規LAAOであることが判明した。上記研究成果はアメリカ化学会の触媒化学専門誌ACS Catalysisで公表するとともに、F1000Primeの推薦論文に選出されている。
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