研究実績の概要 |
本研究では生合成模倣化学合成法の有用性を実証する応用研究として、ペプチド系天然物の全合成および生合成研究への応用を計画していた。生合成模倣ペプチド合成法ではその化学合成中間体が生合成中間体と類似の構造となるため、通常自然界からは得られない生合成中間体が容易に化学合成供給可能となる。 2018年度は、研究対象とした天然物群のなかでも環状ペプチド天然物スルガミドA-Eおよび鎖状ペプチド天然物スルガミドFについて、その化学合成を駆使した生合成メカニズム解明研究を行った。化学合成基質と大腸菌において異種発現させた生合成酵素とのin vitro反応によるペプチド鎖伸長の停止メカニズム解明研究を行った結果、通常のNRPのペプチド鎖伸長の停止を担う酵素(TE)とは大きく異なる部位に存在する酵素SurEにより環状ペプチド天然物スルガミドA-Eが得られることを明らかとし、これまで未解明であった環化機構の解明に成功した(Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 9447.)。 2019年度も引き続き生合成模倣化学合成法の全合成および生合成研究への応用研究を行なった。環状ペプチド天然物スルガミドAは、その遺伝子情報解析から新規の特殊アミノ酸(D-Ile)生合成メカニズムを有すると示唆されていたが、我々の全合成により提唱構造中のD-Ileは正しくはD-allo-Ileであることが判明した。当初の計画とは異なるものの、特殊アミノ酸の生合成に着目し研究を行なったことによりその訂正構造を報告する結果となった。 また、引き続き本研究で同定に成功した新規酵素SurEの機能解明も行なった。SurEは生産生物もアミノ酸配列も全く異なる鎖状ペプチド天然物カスミガミド誘導体の環化能も有することが示され、ペプチド環化触媒として幅広く応用可能であることが確認された(論文投稿準備中)。
|