イネはコール酸(CA)に応答し抗菌性二次代謝物であるファイトアレキシン(phys)の生産誘導などの病害抵抗性反応を示す。本研究ではイネのCA応答時の代謝変動や遺伝子発現変動についての品種間比較解析や、ジャスモン酸(JA)応答との比較解析等を行うことで、イネのCA応答機構や二次代謝物の生合成制御機構の解明に取り組むものである。 イネ64品種を用いphys生産の器官特異性やCA応答性を評価し、phys生産能の品種間差を明らかにした。この中でCA誘導的なphys生産を示さない品種「R50」が得られたので、CA及びJA応答性について対照品種である日本晴との比較解析を実施した。その結果、phys生産誘導についてR50はCAだけでなくJAに対しても非感受性であることが示された。一方、JAによる生長阻害は両品種同等に示した。日本晴とR50のCA、JA応答性遺伝子を網羅的に比較するために、phys蓄積が顕著である各処理後3日でのRNA-seq解析を実施した結果、phys生合成関連遺伝子群を含む日本晴のCA誘導性遺伝子の内8割以上がJA誘導性遺伝子に内包されることが示された。また、日本晴とR50とで共通のCA応答遺伝子はほとんど存在していなかった。以上の結果、イネはCAに応答してJAシグナルを部分的に活性化し、phys生産誘導を制御していることが示唆された。また日本晴とR50のCA応答性には大きな違いがあることも示唆された。 上記の関連研究としてイネ品種群を用いた耐塩性と代謝応答の関連解析を実施し、イネのフラボノイド類生産能と耐塩性に関連があることを明らかにした。また、活性型JA類の生合成研究にも取り組み、シロイヌナズナのAtGH3.10がJA-Ile生合成に関わることを明らかにした。 以上本研究によりイネのCA応答機構や、植物の化合物を介したストレス応答機構の多様性の理解に繋がる知見が得られた。
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