研究課題
イネにおける代表的な病害抵抗性反応として、抗菌性二次代謝産物であるファイトアレキシンの生産が挙げられる。イネにおけるファイトアレキシンの生産を誘導するシグナル物質として植物ホルモンであるジャスモン酸が知られている。ジャスモン酸の活性型であるジャスモン酸イソロイシンは、COI1-JAZ受容体複合体により認識される。イネに3種存在するCOI1のうち、OsCOI1cがファイトアレキシン生産の制御に関与することがこれまでに明らかになっている。本研究は、OsCOI1cを介したJA-Ile誘導的なファイトアレキシン生産の制御機構の解明を目的とする。本年度は、OsCOI1cとイネのJAZの相互作用の解析を開始した。イネのJAZについてはこれまでに組換えタンパク質発現系が確立されていなかった。そこで、OsCOI1cと相互作用するJAZをプルダウンアッセイにより同定するため、15種のイネのJAZの全てについて発現系の構築を試みた。コムギ胚芽無細胞発現系を用いることにより、これまでに一部のJAZについて十分な組換えタンパク質を得ることに成功し、残りのJAZについてもベクター構築をほぼ完了した。得られたJAZタンパク質を用いて、予備的にOsCOI1cとの相互作用をプルダウンアッセイにより解析したところ、相互作用が見られたJAZが存在した。今後は全てのJAZタンパク質について発現を行い、プルダウンアッセイによりOsCOI1cとの相互作用を解析する。また、酵母2ハイブリッド法によりOsCOI1cとJAZの間の相互作用を行うことを計画し、ベクター構築を完了した。今後、酵母2ハイブリッド法による相互作用解析も行う。さらに、イネ葉を用いた一過的発現系によるレポータージーンアッセイにより、イネのJAZの機能解析を試みた。その結果、これまでに解析を行った12種のJAZがファイトアレキシン生産を制御する鍵転写因子DPFの発現を抑制することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本研究の遂行においては、OsCOI1cとJAZの相互作用の解明が重要となる。そして、これらの相互作用解析においては組換えタンパク質の調製が必要となる。JAZについてはコムギ胚芽無細胞発現系を用いることにより、効率的に組換えタンパク質を調製することが可能となった。また、OsCOI1c組換えタンパク質については共同研究者から提供を受けることが出来る状況である。以上のように、これらの組換えタンパク質を用いて相互作用解析を遂行していくことが可能な状況となった。また、本年度はイネ葉を用いた一過的発現系によるレポータージーンアッセイ系を構築した。今後、この実験系を用いて様々な遺伝子に対するJAZの転写抑制能を解析していく。
OsCOI1cとJAZの組換えタンパク質の供給が可能な状況となったため、プルダウンアッセイにより相互作用解析を行う。これと並行して酵母2ハイブリッド法によるOsCOI1cとJAZの相互作用も行う。これらの相互作用解析の結果から、イネのファイトアレキシン生産に関与するJAZを予想し、その変異株や過剰発現株の作製を行う。得られた形質転換体については、ジャスモン酸処理時のファイトアレキシンの蓄積を解析する。
本研究の計画時にはCOI1とJAZの間の相互作用を免疫沈降を用いて行うことを予定しており、JAZ抗体の作製費用をその他の経費として計上していた。しかし、プルダウンアッセイなどのin vitro実験によりCOI1とJAZの間の相互作用を十分に評価することが可能な状況となり、JAZ抗体の作製は行なわず剰余金が発生したため、次年度使用額が生じた。これらの助成金は、次年度においてプルダウンアッセイに用いるグルタチオンビーズやエピトープタグ抗体などの物品購入に充てる。
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Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 83 ページ: 876~881
10.1080/09168451.2019.1569500